去る2014年。国際双極性障害財団、国際双極性障害学会、およびアジア双極性障害ネットワークにより、3月30日が「世界双極性障害デー」に定められました。
参考:日本うつ病学会 双極性障害委員会「世界双極性障害デー」
世界双極性障害デーを目前に、メンタルヘルス・ウェルビーイングに関する情報を提供する「mentally」にて、過去に双極性障害を患った経験がある3名の座談会をお届けいたします。
◇座談会参加メンバー
- 西村 創一朗:株式会社Mentally CEO
- 坂田 一倫:株式会社Mentally プロダクト責任者
- 横山 彩乃:株式会社Mentally webメディア責任者
双極性障害の予兆と防止法は?キーワードは「定点観測」
イラスト作成:いしかわ ゆき
坂田:今回は坂田がモデレーターを努めさせていただきます。まずは、双極性障害について簡単にご説明します。双極性障害とは、うつ状態と(軽)躁状態を反復することにより、社会的なハンディ―キャップを背負ってしまう精神疾患です。
世間ではうつ病との違いがそこまで意識されていませんでしたが、最近では「うつ病と双極性障害は別の病気」という認識が広がっており、双極性障害の当事者である僕も「違うものだ」と感じています。
本日をきっかけに、記事をご覧の皆様にも双極性障害について理解を深めていただければと思います。まずは西村さん、当時の様子についてお聞きしてもよろしいですか?
西村:僕は双極性障害Ⅱ型で、独立をしてから3年間で3回のメンタルダウンを経験しています。メンタルダウンの話をするとすぐに「うつ病」だと思われがちですが、双極性障害の場合は「うつ期」に入る前に必ず「躁状態」の時期があります。
まるでジェットコースターのように、上がれば上がるほど落差が大きい。僕は「夏に上がって秋冬に下がる状況」を3年間繰りかえしました。自分のメンタルを上手にコントロールできるようになってきたのは、ここ2年半ほどです。
坂田:西村さんが「症状を悪化させない・再発させない」ために取りくんでいることはありますか?
西村:「いかに気分を高めすぎないか」です。下がるのを防ぐために、上がらないようにする。カウンセラーや家族に協力をしてもらいながら、危ないときには「上がりかけているよ」と教えてもらうようにしています。つまり「第三者に定点観測をしてもらい、客観的な目線でストップかけてもらうこと」が僕の悪化・再発防止です。
坂田:西村さんの中で「今は気分が上がっていそうだな」と感じる瞬間はありますか?
西村:僕の場合は、いろいろなアイデアを思いつくと、全部手をつけてしまうんです。「これも面白そう、あれも面白そう!俺、天才なんじゃないか!」と本気で思ってしまって、どんどん新しいことにチャレンジをしてしまう。これが僕の気分が上がっているときの傾向です。
坂田:なるほど。周りの方には、具体的にどのような声かけをしてもらっているのでしょうか?
西村:妻には、僕の様子が危なそうであれば「最近ちょっとヤバいんじゃないの?」と、はっきり伝えてもらうようにお願いしています。状態の変化を日常的に見ることができるのは、妻しかいないので。他には、月に一回は必ずカウンセリングを受けるようにしています。カウンセラーにも、定点観測してもらうことが大切だと思っています。
坂田:双極性障害は8~9割もの高い再発率を持つ精神疾患だからこそ、定点観測が大切ですよね。
参考:HumanCapital ONLINE「ひょっとして双極性II型障害かも?うつの再発を繰り返す人は、疑ってみることが大事です」
僕も2015年に双極性障害Ⅱ型を発症し、7年間で3回の再発を繰りかえしました。今は落ちついていますが、いつ上がってもおかしくありません。初めての発症時は通勤中に手が震えはじめて、涙もボロボロ出てきて。「これはただ事ではないな」と思い、病院へ……。当時は、自分の身体がどうなってしまったのか自覚ができませんでした。
西村:そうなんですよね。双極性障害は、自覚をするのが難しい。
坂田:当時、最初に産業医の方にいわれた言葉でハッとしたのをよく覚えています。双極性障害だと診断された理由を伺ったら「ここ2〜3年の間に、どんな仕事でもこなせる!やる気満々だ!完璧だ!と思ったことはありませんか?」と聞かれました。恥ずかしいんですが、「あります」って答えたら……「それですね」と(笑)。
体は嘘をつかないため「疑ってかかることが大切だ」と実感しました。体に支障が起きているのなら、何かしらの問題が生じているということ。自分で「これはおかしいぞ」と思ったタイミングで、誰かに相談をするのがベストだと思います。
横山:坂田さんが悪化・再発をしないように心がけていることは何ですか?
坂田:自分も西村さんと同じく「定点観測」です。上がってしまうときにどんなパターンを取りがちかを自覚することが大切です。僕の場合は、爆買いが多い傾向にあります。何かしらの定点観測のポイントを設定して、客観的に自分を見るようにしています。
治すのではなく「再発させない」。症状の自己判断には警鐘を
坂田:横山さんは、双極性障害の診断を受けたときはどのような状態でしたか?
横山:私も10代の頃から爆買いをしてしまうタイプでした。周りにも迷惑をかけ「私はどうしようもない人間なんじゃないか」と落ち込んでばかりで……。そのため、双極性障害だと診断されて安心しました。今までの自分の症状も「メンタル不調だったんだ」とわかり、ホッとしたのを覚えています。
西村:わかります。僕も安心しました。
横山:特に20歳で起業したときは、完全な「躁状態」だったと認識しています。当時は自信に満ちあふれて、通っていた病院にも行かなくなりました。「私の病気はもう治った。もう大丈夫!」という気持ちになったんです。
西村:躁状態だと自己判断をしてしまいがちですよね……。
横山:双極性障害に悩んでいる方や、今はメンタルに不安がない方でも「自己判断で通院をやめること」だけは本当に気をつけてほしいと思っています。
坂田:その通りですね。
横山:坂田さんがお話されたように、双極性障害は完治をすることが本当に難しい病気です。そのため「安定期や再発予防を目指すカウンセリング」をしてくださる医師の方が、とても多いと思っています。でも、当時の私は「もうクリニックなんて行かなくても大丈夫!」と無敵モードに入ってしまって……。
起業の宣言をした翌日に司法書士に連絡して、登記を進めてもらうというスピード感で起業をしましたが、事業スタートから2年半でメンタルダウンしてしまいました。
西村:上がったら落ちるのが双極性障害の恐ろしい所ですよね。
横山:ダウンしてしまったときは、まず外に出られない、起き上がれない。家の外に出て人とすれ違うのが怖い。さまざまな人の視線に悪口をいわれているように感じてしまいました。
多くの方に迷惑をかけ「どうしてあのとき、クリニックに通いつづけなかったんだろう」と深く後悔をしたことを覚えています。双極性障害を抱えている方に一番気をつけてほしいことであり、私自身が気をつけていることは「自己判断をしないこと」。実体験を通して、心からそう思っています。
西村:双極性障害の再発率の高さは、症状を自己判断しがちなことにも関連していますよね。
坂田:病院に通いつづけることの必要性は、僕も強く感じています。双極性障害は、病院に行けば確実に治るような病気ではありませんよね。僕も「治す」のではなく「再発させない」と意識をするようになってから、精神的にかなり楽になりました。横山さんが、悪化・再発防止として取りくんでいる方法は何ですか?
横山:私は一人暮らしをしているため、今の自分の状態を客観的に把握することができません。そこで、定期的に実家に帰るようにしています。すぐ近くに信頼できる人がいる状態が、一番ベストだとは思います。
西村:坂田さんはもともと、通院へのプレッシャーは強かったのでしょうか?
坂田:最初は足が重くて、病院に行くのがつらくて……。周囲に心配をかけるのも、マイナスなレッテルを貼られてしまう可能性があることも不安でした。
しかし、今は「自分は病を患っている」「継続して通院をしないと再発の可能性がある」といい聞かせることで、通院に抵抗がなくなってきました。プレッシャーやレッテル以上に、横山さんがお話しされたように「自己判断」のほうが危険だなと思います。
横山:絶対に治そうと意気込んでしまうと、逆に無理をしてしまうことが多い印象を受けます。「治すぞ!」という意識よりも「正常な状態・フラットな状態にすること」を目標にして、継続していく努力のほうが大事だと感じます。
メンタルヘルスへの理解の変化。未来へとつながるMentallyの想い
坂田:今は、mentallyのようなメディアや双極性障害の情報がどんどん世の中に出るようになって、双極性障害や精神疾患への理解は昔と比べるとかなり深まっているという認識です。昔と違って、今は「精神疾患であることを自覚する・告白すること」へのハードルが、少しずつ下がってきているのかな、と思います。
横山:メンタル不調の告白における不安や抵抗は、周囲よりも当事者の方が感じていると思います。特にメンタル不調に悩む方は、いわゆる「気にしやすい性格」の人が多いのではないでしょうか。それを踏まえた上で、「メンタル不調を患っていることをあまり気にしなくてもいい世の中」に、ようやく近づいてきたのかな、と感じています。
坂田:西村さんは会社を経営されていて、我々のようなメンタル不調を抱える人間と一緒に仕事をしていますよね。仕事をする上で、特に意識をしている点やコミュニケーションで気をつけている点などはありますか?
西村:あります。実際僕がどれだけできているかは、お二人からフィードバックをいただきたい所ですが(笑)。一番は、ネガティブな部分をいかに減らすか。「この言葉選びで相手を傷つけてしまわないかな」というのは、かなり意識しているつもりです。
もう1つは、躁状態の予防です。傷ついたりマイナスな感情を持ったりすることも怖いものですが、プラスになりすぎるのも怖いので。お二人にも共通すると思いますが「いかに働きすぎないか」という点はかなり気にしています。バランスが難しいときもありますが、危険なタイミングではなるべくストップをかけるようにしています。
横山:西村さんは、度々「休みなさい」といってくださいますよね。西村さんのようにストップをかけてくださる存在はありがたいと思っています。
西村:コンスタントな1on1も定点観測の機会になっていますよね。
坂田:今まさに記事を読まれている方にもおすすめなのですが、5分〜10分でも構わないので「メンバーそれぞれの健康状態をアイスブレイクを兼ねてシェアする場」があることは、とてもいいなと思っていて。ミーティングを始める前に「メンバーそれぞれがどんな状態か」を理解した上で会話をすると効率がいいと気づいてから、シェアの時間は必ず取るようにしています。
今回は、世界双極性障害デーを機にMentallyのメンバーで集まり、双極性障害への理解を深めるための座談会を開催しました。最後にMentally代表の西村さんからのメッセージをどうぞ!
西村:改めて最後までお読みくださり、ありがとうございます。Mentallyでは、「自分の心にも誰かの心にも優しくなれる時代を作る」というミッションを掲げています。展開しているサービスは、大きく分けて2つです。
1つは、昨年10月から開始した「mentally.jp」というメンタルヘルス・ウェルビーイングに特化したウェブマガジンの運営です。今日の座談会の内容や双極性障害についての記事を含めて、200本以上の記事を公開しているため、まだ読んだことがない方はぜひご覧ください。
もう1つは、現在先行案内受付中の「mentally.app」というメンタルケアアプリの開発です。今年の春に本リリースを予定しています。mentallyでは、双極性障害や類似する症状に悩んでいる人が、双極性障害の経験者に相談をして経験談を聞いたりできるようなプラットフォームを目指しています。
mentally.appは、「メンタル不調を抱えていた先輩」に悩みをシェアしたり相談することで、自分の問題・課題解決の参考にしていただけるサービスです。サービス利用を申し込んでくださった方には、公式リリースのタイミングでご案内を差し上げております!ご興味のある方はぜひ以下のバナーの「サービスの利用を申し込むボタン」から申し込みください。お待ちしております!