身近な人に「死にたい…」と相談されたら──精神科医が教える傾聴の姿勢と保つべき距離感

専門家に聞く、メンタルヘルス


警察庁が公表するデータによると、平成21年から減少傾向にあった自殺者数は、令和2年に前年を上回る数値となりました。

参考:厚生労働省・警察庁「令和3年中における自殺の状況

もし、身近な人に「死にたい」と打ち明けられたとしたら……きっと戸惑い、悲しみながらも、「相手のためになにができるだろう?」と考えることでしょう。

本記事では、精神科医・産業医であり、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長を務める堤多可弘先生に、身近な人に「死にたい」という気持ちを打ち明けられた場合の対処法について詳しく伺いました。

分かろうとするよりも、受け止める姿勢で傾聴する


──「死にたい」という言葉の裏には、どのような気持ちがあるのでしょうか?

「死にたい」という言葉をストレートに「自殺したい」と受け止めてしまうことは危険です。もちろん大なり小なり「自殺したい」という気持ちはあるでしょう。でも、ほとんどの場合は「死にたいくらいつらいんだけど、どうにかなるのであれば、生きたい」だと思います。

純粋に死ぬことを求めているのだとしたら、それを他人に打ち明けることはしないと思います。また、「いま抱えているつらい気持ちを吐き出したい、誰かに受け止めてほしい」という願いもあるのではないでしょうか。

アメリカ・サンフランシスコにあるゴールデンゲートブリッジという橋は、自殺の名所として有名でした。そこで、自殺を制止された515人を追跡調査したところ、9割以上が在命か老衰などで自然死していたそうです。

ここから分かるのは、自殺という行動はとても衝動的なものだということ。全ての自殺が防げるわけではなく、我々専門家でさえも患者さんの自殺を経験することはあります。しかしその一瞬を乗り越えられれば、なんとかその先を生き延びることはできるのです。そしてもう一つ重要なことがあります。橋で制止をしたのは精神科医など専門家というわけではありません。専門的なアドバイスがなくとも、ちょっとした声掛けで、いまある「死にたい」という気持ちを思いとどまらせることは可能かもしれないという点です。

──打ち明けられたとき、どのような姿勢で話を聞けばよいか教えてください。

「死にたい」と打ち明けられたとき、きっと「どう返事をすればいいのだろう」と戸惑うことと思います。うまい返しをする必要はありません。相手の言葉から勝手に気持ちを決めつけることなく、受け止める姿勢でいてください。大切なのは、“I understand.(理解しました)”でも、“I konw.(知っている)”でもなく、“I got it.(受け止めました)”の姿勢なんです。

「生きている価値がないんだよね」と吐露している人に「そんなことないよ!価値はあるよ!」なんて言っても、どれだけ響くでしょうか?それよりも、「そんなふうに思っているんだね」と、相手の言葉が自分に届いていることをしっかりと表してください。

──“I got it.”の姿勢が伝わるためには、どのような言動をとればいいのでしょうか?

具体的には、まずはあなた自身が気持ちを落ち着かせましょう(CALM)。そして、「TALKの原則」を覚えておいてほしいです。これは、取るべきアクションの頭文字を表します。

  1. Tell:相手に、「自分は心配している」と言葉で伝える
  2. Ask:いまの気持ちについて、率直に尋ねる
  3. Listen:気持ちを傾聴する
  4. Keep safe:安全を確保する

「TALKとCALM」を思い出し、相手の気持ちに寄り添うときには、決めつけず、話をよく聞き、「アイ・メッセージ」で伝えることを意識してください。アイ・メッセージとは、主語を「私は」にした伝え方です。

「病院へ行きましょう」という提案をする際には、「そういう気持ちのときには、病院へ行ったほうがいいんだよ」ではなく、「私はあなたが心配で、病院へ行ってほしいと思っているよ」と伝えましょう。「死ぬべきじゃないよ」も、「私はあなたに死んでほしくない」にすると、受け取る側の気持ちが変わりそうですよね。

──「死にたい」と打ち明けられたときに、とるべきではない言動も教えてください。

一番避けてほしいのは、否定的な態度をとることです。「そんなこと言っちゃダメでしょう」などは決して言わないでください。

──「死にたい」気持ちは、どういう相手になら打ち明けられるものでしょうか?

医師や専門家、あとは心理的安全性が高い家族や友人です。深刻な状態な場合であればあるほど、自分とは遠い存在の人には打ち明けづらいものです。

──身近な人に気持ちを打ち明けてもらうには心理的安全性の高さが重要なのですね。どうすれば、「この人には話しても安全だ」と感じてもらえるでしょうか?

「心理的安全性が低いと感じるのは、どんな相手か」という視点から考えてみるといいでしょう。人の話を聞いても否定する人や、価値観を押し付ける人には、相談しづらいですよね。

また、「この気持ちを話しても大丈夫だろう」と感じられるものがあると、さらに打ち明けてもらいやすくなることもあります。たとえば、以前にあなたの方がつらい体験談を共有していたことがあると、安心するかもしれませんね。

野里 のどか

野里 のどか

フリーライター。社会福祉士の国家資格取得を目指し、専門学校で学んでいる。両親の離婚・再婚、精神的虐待、うつ、セクハラ被害、友人を亡くした経験を持つ。LGBTQ/家庭/子どもの人権に関心あり。

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