近年、耳にすることが増えた「パニック障害」。タレントやスポーツ選手がパニック障害であることを公表したのが記憶に新しいのではないでしょうか。
パニック障害は100人に1人が罹患するともいわれ、決して珍しい疾患ではありません。
参考:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト「パニック障害・不安障害」
しかし、「パニック障害は一生付き合っていく病気」「身近な人がパニック発作を起こしたら、どう対処したら良いのかわからない」といった意見も見受けられ、正しい知識はまだまだ浸透していないことが伺えます。
今回は、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長である堤多可弘先生に、パニック障害との付き合い方、パニック障害を抱える人への接し方について詳しく伺いました。
最近よく聞くパニック障害とは?
——パニック障害はまだまだ認知度が低い病気ですが、最近よく耳にするようになりました。比較的新しい精神疾患なのでしょうか?
「パニック障害」として確立されたのは、1980年頃のことです。40年ほど前から診断基準が決められている病気なので、決して新しい疾患ではありません。
それ以前は、恐怖や不安が蓄積してパニック症状が生じると考えられ「不安神経症」として扱われていましたが、1980年にアメリカ精神医学協会により区分されました。
ここ10年ほどで、タレントやスポーツ選手が自身のパニック障害について公表することが増えたため、新しい疾患というイメージがあるのかもしれませんね。
——そうなんですね。「パニック障害だと診断されたけど他の病院では違う診断だった」との意見を聞くことがあるのですが、パニック障害の定義はまだ曖昧なのでしょうか?
パニック障害の診断基準は確立されていますが、パニック障害を持つ患者の91%が他の精神疾患を合併していると言われています。そのため、パニック障害以外の診断を受けたのかもしれません。
合併の例として、パニック発作が原因で仕事や私生活がうまくいかなくなりうつ病を発症するケースや、反対にうつ病の初期症状としてパニック発作を起こすケースがあります。
もっとも合併しやすいのはうつ病で、パニック障害を持つ人の2/3はうつ病の診断を満たすとも言われています。
——なるほど。パニック障害を悪化させないために普段からできることはあるのでしょうか?
パニック障害の悪化防止のために本人ができることは、次の2つが考えられます。
①生活リズムを整える
不規則な生活、ストレスフルな生活はパニック障害が悪化する要因の一つです。とくに寝不足はパニック発作の引き金となります。
そのため、適度な運動や規則正しい食生活を心がけ、生活習慣を整えることが大切です。また、不眠の原因となるカフェインの摂りすぎや夜のスマホ使用なども控えましょう。
もし、「寝つきが悪い」「途中で目が覚める」「早朝に目が覚める」といった不眠の症状が、週に2〜3日、2週間以上続いたら要注意です。不眠が1ヵ月以上続くと、体内時計が乱れ改善に時間を要するため、早めに医療機関へ行くことをおすすめします。
②特定の食べ物・嗜好品を避ける
パニック発作を引き起こす要因の一つとして、次の3つが挙げられます。治療中はできるだけ控えましょう。
- カフェイン
- ニコチン
- アルコール
とくに、カフェインをとるとパニック発作が起きやすくなると言われています。また、寝酒(就寝前のアルコール摂取)は不眠にもつながるため、避けるのが望ましいでしょう。
パニック障害をオープンにするメリット・デメリット
——パニック障害は周囲のサポートも必要になる場合があるかと思います。パニック障害であることを家族や友人・職場に打ち明けるのは、やはり大切なのでしょうか?
打ち明けることは、治療の絶対条件ではありません。しかし、オープンにすることで「周囲の人が接しやすくなる」「業務上の配慮がしやすくなる」といったメリットがあります。
またパニック発作は、「発作が起きたらどうしよう」という不安が引き金となるため、「この場所なら発作が起きても大丈夫」と思える環境に身を置くことが大切です。
そういった意味でも、周囲に打ち明けて理解を得るメリットはあるでしょう。
——職場にパニック障害であることを打ち明けるのは、勇気がいりますよね。オープンにするデメリットはあるんでしょうか?
これはすべての精神疾患に共通しますが、周囲から「きちんと働けないのではないか」「発作が起きたときにどう対処したら良いかわからない」といった、偏見や不安を持たれてしまうのがデメリットです。
そのため職場では、パニック障害を打ち明けると同時に正しい知識を伝えるのが良いと思います。
——正しい知識とは、どういうことでしょうか?
パニック障害が「改善が見込める病気であること」や「コントロールがつきやすい病気であること」です。
パニック障害は薬の反応率が高く、効果を期待しやすい疾患です。治療を終了される方や、薬とうまく付き合って問題なく日常生活を送っている方も多くいます。
こういった正しい知識がないまま「パニック障害を抱えている」という事実だけを伝えられると、周囲が困惑する可能性も。できる限り、相手の不安や誤解を取り除いておくことが大切です。
上記に加え「発作は数分でおさまります」「万が一発作が起きても救急車を呼ぶ必要はありません」などと、自分の情報を事前に伝えておくと安心ですね。
——正しく理解してもらうことが大切なんですね。パニック障害を職場に打ち明けた場合、会社の中でサポートをしてくれるケースはあるのでしょうか?
企業によりさまざまですね。実際、パニック障害の方が「在宅勤務のみにさせてください」と申し出て、会社から許可を得たケースはあります。
しかしこの場合、会社側と患者本人、双方が納得した上での解決策であったことがポイントです。
「出社しなければできない業務内容なのに在宅勤務を希望する」「フレックス制度がないのに午後からの出社を申し出る」など、無理な要求を押し通すことはお互いの負担になるためおすすめしません。
会社や業務内容との折り合いが付かずに苦しむのであれば、転職も選択肢のひとつと言えます。ストレスはパニック発作の大敵なので、心と身体にストレスがかからない選択をしましょう。
パニック障害を抱える人への接し方は?
——パニック障害を抱える人との接し方で意識しておくべきことはありますか?
満員電車や人混みなど苦手なシチュエーションや発作が出やすいシチュエーション、その日のコンディションを共有しておくのが良いですね。
たとえば、パニック障害を持つ友人から「寝不足で体調が万全ではない」と聞いていたら、満員電車や人混みを避けるといった事前の対処ができますよね。
ただし気を付けたいのは、先回りしすぎたり過剰な対処をしたりしないこと。本人の可能性を奪わないためにも、重要なことです。
パニック障害を患っていたとしても、発作が起きていないときは問題なく日常生活を送れるので、基本的に特別扱いは必要ありません。
——コンディションに問題がなければ、普段通りに接すれば良いんですね。それでは、パニック発作を起こしている人に出会った場合は、どのように対処すべきなのでしょうか?
見ただけでパニック発作だと判断するのは難しいのですが、すごく苦しそうなのに意識がはっきりしているのがパニック発作の特徴です。
発作を繰り返している方なら薬を常備していることも多いので、人が少ない場所に移動させたり、水を渡したりして落ち着かせれば、10分ほどで発作はおさまるでしょう。
もし判断に迷ったり、「意識が朦朧としている」「受け答えがぼんやりしている」といった様子が見られたりした場合は、ためらわずに救急車を呼んでください。
——パニック障害の人が身近にいる場合、周囲の人がサポートできることはありますか?
受診の手伝いができます。
パニック障害を患っている人のなかには、病院を受診しない方が一定数いらっしゃいます。理由はさまざまですが、次のようなケースが考えられます。
- パニック症状が時々現れるが、本人が病気だと気付いていない
- パニック障害だとわかっているが、改善が見込めない病気だと考えている
この場合、周囲の人が「パニック障害かもしれないね。ちゃんと治療すれば改善する病気だから、一度病院に行ってみるのも良いんじゃない?」と声を掛けるだけで十分です。
上記のほかに考えられるのは、自分が精神疾患であることを認めたくなくて受診を拒んでいるケースですね。
——「精神疾患だと認めたくない」という気持ちとは、どう折り合いをつけるのが良いのでしょうか?
パニック障害に限ったことではありませんが、多くの人が「精神疾患と診断を下されること」そのものに不安を抱いています。そのため、精神科を訪れることに抵抗を感じる人も多いのでしょう。
しかし、診断を下されたからといって人生が悪い方へ向かうなんてことは一切ありません。むしろ、診断を下されたことで「治療を受ける」という選択肢を得ることができます。もちろん診断を受けた上で、「治療しない」という選択をするのも本人の自由です。
日常生活に支障がなければ無理して治療する必要はありませんが、本人が苦しい状態なのであれば、「選択肢を一つ増やしてみよう」くらいの気持ちで病院に行ってみると良いと思います。
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