コロナ禍が落ち着きを見せてきた一方で、社会情勢や経済状況は大きく変動。企業にとって厳しい状況が続く中、中核人材である中間管理職の負荷が増大しています。その結果、深刻なメンタル不調に陥る中間管理職も少なくありません。
そこで、今回は、中間管理職のmentally読者にメンタル不調についてアンケートを実施。公認心理師・産業カウンセラーとして多くの企業で従業員のカウンセリングを行う大野萌子先生に、その回答を踏まえながら、中間管理職のメンタル不調についてお伺いしました。
自身のメンタルの変化に気づかない「隠れメンタル不調」
──今回のアンケートでは、中間管理職の32%がコロナ禍でメンタル不調を感じていると回答しています。企業の現場に詳しい大野先生から見て、この数字をどのように分析しますか。

株式会社Mentally 「コロナ禍におけるマネジメントの悩み」に関する調査 2022年5月
企業カウンセリングで最も多いのが、中間管理職からの相談です。組織の中でも最も忙しい人たちなので、自分のメンタル不調に気づいていないという人も多いですね。
mentally読者の方は、メンタルに悩みや関心を持っている方が多いと思います。それでも、このアンケートではメンタル不調を認識している人が3割程度。一般の方を対象にするとメンタル不調を自覚している割合はもっと少なくなるでしょう。多くの中間管理職が「まさか、自分が心の不調になるわけない」と思っているのです。
しかし、現場で相談を受けている立場としては、自分で気づいていない「隠れメンタル不調」を含めると、中間管理職の過半数がなんらかのメンタル不調を抱えていると感じています。
──アンケートでは、メンタル不調を感じている方が産業医・保険医に相談した内容は、「自身のメンタル不調について」が一番多かったのですが、こちらについてはいかがですか。

株式会社Mentally 「コロナ禍におけるマネジメントの悩み」に関する調査 2022年5月
職場におけるメンタル不調の原因は、その9割が「人間関係」に起因します。メンタルや体の不調、マネジメントや人間関係、コミュニケーション、そのいずれも背景にあるのは「人間関係のストレス」です。
相談時に訴えることが違ったとしても、結局、根本は「人間関係の悩み」という点では同じだと思います。
上司からのプレッシャーと、部下への気遣いで疲弊
──中間管理職のメンタル不調がそこまで多い理由としては、どんなことが考えられるでしょうか。
今の中間管理職の上司に当たる世代は、ハラスメントが普通だった50代以上が中心です。頭では「昔ながらのやり方は通用しない」とわかっていても、つい威圧的な言動をとったり、滅私奉公精神を要求したりすることも。数字だけを見て、一方的に叱責することも多くあります。
最近では、コロナ禍で在宅ワークを希望したら怠けていると判断されたのか、出社している人と明らかに対応が変わったというような「出社至上主義」や、デジタルデータでは不安だからと何でもかんでも紙でプリントすることを要求するというような状況も。また、いまどきは部下であってもビジネスシーンでは丁寧語で話すのが普通ですが、命令調のタメ口ということも少なくありません。このような、今の時代に逆行するスタイルをビジネスの場に持ち込まれることで、業務の負担、精神的ストレスなどが中間管理職にたまっているのです。
──上司からのプレッシャーだけでなく、コロナ禍を経たことによる環境の変化もストレスにつながっているのですね。
一方で、部下である若手社員は「ハラスメントなんてありえない」世代。加えて今の20代はアサーション、つまり自分の考えを相手にきちんと伝えることがとても苦手なのが特徴です。
例えば、カフェでコーヒーを注文したのに店員が間違えて紅茶を出しても、「違います」と言えず、そのまま黙って紅茶を飲むという人が珍しくありません。その理由を尋ねてみると、「なんて言っていいかわからない」「嫌な客だと思われたくない」「違うと伝えるタイミングが掴めない」という答えが返ってきます。
同じような例で、コピー機の前にボーッと立ちすくんでいるように見えた若手社員が、実際はコピー機の使い方がわからなくてスマホでやり方を検索していたなんてことも。これも人に聞くということができない典型例だと思います。
そんな若手の部下に対して、中間管理職は「いったい、どうしたいのか」「何を考えているのかわからない」と困惑。伝えるスキルが低い若手の気持ちを一生懸命、汲み取ろうとしても、「のれんに腕押し」と感じているようです。
──なるほど……。
そもそも中間管理職の人たちは、自分たちがメンタルサポートを受けた経験がありません。「部下のメンタルをサポートしろ」と言われたところで、「どうしていいかわからない」というのが正直なところでしょう。誰かに相談したくても、昔ながらのやり方が染み付いた上司では相談相手にならないのが現実です。
結局、部下に遠慮して顔色を伺うような指示の出し方をすることになってしまいます。しかし、それでは仕事がうまく回らず上司から突き上げられる、という負のループに陥りがちなのです。
加えて、多くの中間管理職は、プレーイングマネジャーとして自らの仕事も抱えています。自分の成果を出しつつ、部下のメンタルサポートを含めてマネジメントするとなると、どうしても心身ともにオーバーワークになりがちです。
昭和スタイルの威圧的な上司、打たれ弱く考えている事がわからない部下に挟まれているのが中間管理職。このような中間管理職の苦悩は、以前から指摘されていましたが、コロナ禍がそれをさらに深刻にしました。職場のコミュニケーションがオンラインにシフトし、コミュニケーションの絶対量が不足。ちょっとした雑談で人間関係を深めることも、難しくなってしまったのです。
──確かにアンケートの回答にも、そういった声がありました。

株式会社Mentally 「コロナ禍におけるマネジメントの悩み」に関する調査 2022年5月