最近よく耳にする「大人の発達障害」。発達障害は成長過程にある子どもについて語られることが多いですが、大人になってから「自分は発達障害だ」と気づく人が増えているのが原因です。
mentallyでは大人の発達障害について、前編では精神科医、後編では大人の発達障害を抱える当事者へインタビューを行いました。
前編となる今回は、大人の発達障害について和メンタルクリニック院長 前田佳宏先生に詳しく解説していただきます。
大人になって気づく、生まれ持った「発達障害」

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──一般にも広く認知されている「発達障害」ですが、大人の発達障害は子どもの場合と何か違いがあるのでしょうか。
発達障害は、「生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態」を指します。
参考: 厚生労働省 発達障害
「10人に1人」といわれる発達障害ですが、基本的に生まれもった症状なので、大人になってから急に発達障害になることはありません。
その診断は、「ICD」や「DSM」というガイドラインに沿って医師が行います。ICDは世界保健機関(WHO)が、DSMはアメリカ精神医学会が、精神疾患の診断基準・診断分類を定義して出版しているもの。ICDとDSMは、最初に出版されたのは1893年、1952年であり、以後改定を重ねています。現在基準となっているのは、2013年改定の「DMS-5」と、2019年改定の「ICD-11」です。
──では、どうして最近になって、「大人の発達障害」が注目されるようになったのでしょうか。
一口に発達障害といっても症状はさまざまで、軽いものから重いものまで幅広くあります。そもそも「発達障害」が広く認知されるようになったのは、2013 年にDSM-5で「発達障害」が診断しやすく定義されてからで、まだ10年ほどしか経っていません。広汎性発達障害はDSM-4が2000年に定義してますが、この頃は重度の人にしか診断基準を満たさない印象で、広まりづらかったと考えられます。
そのため、今は大人になっている人でも、子ども時代からほかの人との違いや生きにくさをなんとなく感じていたという人は多くいます。とくに症状が軽い、もしくは診断基準にはあてはまらないグレーゾーンの場合は、「ちょっと変わっている」という言葉で片付けられてしまうことも珍しくありませんでした。
そういう人たちも、「言われたことをやればよい」「できないこともサポートしてもらえる」学校生活では、日常生活をこなせていたのが、社会に出て厳しい現実に直面。学生時代とは違い、仕事では「うまくできないではすまされない」ことが多く、本人も周囲も「どうして、こんなことができないんだ」と生きづらさを感じてしまうのです。
自分でもなぜ言われたことができないかわからないというジレンマに苦しむうちに、「もしかしたら発達障害かもしれない」と気づく人が増えているようです。
サポートから抜け落ちるグレーゾーン
──グレーゾーンというのは、具体的にどのような範囲の人を指すのでしょうか。
グレーゾーンは、症状によっても基準が違いますが、わかりやすい例で説明すると、知的障害(知的発達症)があります。知的障害を診断する指標が知能指数(IQ)です。IQ70以下が知的障害と診断されますが、これは小学5年生レベル。簡単な日常生活はできるけれど、複雑な仕事や手続きは難しいという感じですね。しかし、その一方で、平均値であるIQ85に達しない、IQ70以上85未満の人は境界知能、いわゆるグレーゾーンにあてはまります。
グレーゾーンの人は「勉強についていけない」「言われたことが理解できない」「対人関係がうまくいかない」といった何らかの課題を抱えていますが、診断がつかないことでサポートを受けられず、セーフティーネットからこぼれ落ちています。
同じように、発達障害と明確に診断はできないけれど、さまざまな症状の傾向がある人たちをグレーゾーンと呼びます。グレーゾーンの人たちは、障害に気づかないまま大人になることが多く、その数もかなりに上ると思われます。