夏バテだと思ったら「夏季うつ」だった?体と心のサインを見逃さず、早めのケアを心がけよう

専門家に聞く、メンタルヘルス

気温35℃を超える猛暑日。うだるような暑さが続き、体も心も参ってしまっている方が多いのではないでしょうか。中には「夏バテ」になり、体調を崩されている方もいるかもしれません。

「夏バテ」と同じくらい注意したいのが「夏季うつ」です。今回は、夏バテと混合されがちな「夏季うつ」について、和クリニック院長である精神科医の前田先生にお話を伺いました。

夏だけに生じるうつ病。夏バテとの違いは何なの?

──「夏季うつ」とはどのようなものでしょうか?

医学的な用語では季節性感情障害といいます。うつ病の一種ですね。一般的なうつ病との違いは、夏季うつは、特定の季節だけうつ症状が現れるということです。夏だけ気分が落ち込み、他の季節になると元気になるといった傾向があります。

実は季節性感情障害は、ほとんどの場合、冬季うつのことを指します。夏季に比べて冬季は日照時間や日照量が少なくなり、うつを発症する可能性が高いのです。そのため夏季うつに関しては、研究が進んでおらず不確かな部分も多くあります。ただし一定数、夏になるとうつっぽくなる人がいるというのは確かです。

──「夏バテ」もありますよね。夏季うつとの違いはなんでしょうか?

夏バテとの大きな違いは、心に影響が出るかどうかということです。夏バテは「だるい」「疲れやすい」など、体に影響が出ることがほとんどです。一方夏季うつは、「気分が落ち込む」「何に対してもやる気がでない」など、心に影響が出ます。

──夏バテになると、身体がだるいだけでなく、心までつらいと思うこともあります。身体と心を切り離すことはできないように感じるのですが……。

おっしゃる通りで、分けて考えることはなかなか難しいと思います。夏バテの人が気分が落ち込んだり、やる気が出なかったりすることもありますし、逆に夏季うつの人に倦怠感や疲れやすさ、不眠、食欲不振といった症状が出ることもあります。

診療をしている中でも、同時に発症している人は多いですね。そのため、体にも心にも注意を向けることが重要だと思います。

夏季うつになる原因となりやすい人の特徴

──「うつになる原因は定かではない」といわれることもありますが、夏季うつに関してはいかがでしょうか?

通常のうつと同様に明確な原因は明らかになっていません。そのため、あくまで考えられる要因の一部だと思って聞いてください。

まず1つめが疲労やストレスの蓄積です。五月病と呼ばれるものがありますよね。4月に大きな環境の変化が起こることで発症するものですが、その五月病を引きずっているパターンが考えられます。例えば、夏になっても新しい会社に馴染めていないとか、忙しくて全然休めていないとか、疲労やストレスがたまる原因がずっと続いてしまっている。そうすると夏季うつを発症してしまう可能性があります。

2つめは気候の変化による影響です。6月は梅雨がありますよね。梅雨は気圧が低い日が多く、自律神経が乱れて調子を崩しやすい時期なんです。頭痛や食欲不振、だるさなど、色々な症状が出ると思います。また梅雨が明けると気温が上がったり下がったりしますし、冷房もつけますよね。あとは台風が来ることもあります。要するに環境の変化が著しい。それで自律神経の調節がうまくいかず、7月、8月にうつを発症してしまうこともあるというわけです。

──確かに気候の変化が大きいと、体や心も乱れる気がします。

あともうひとつ原因として考えられることは、夏にトラウマを持っている場合です。例えば、会社で大きな失敗をしたことがあるとか、恋人と別れたとか。「記念日反応」と言うのですが、過去に経験したつらい気持ちがよみがえってきてしまうことがあります。

これはトラウマの体験の記憶と季節が無意識下で関連づいてしまっているため起こるのです。セミの鳴き声や入道雲など夏を感じると、「この時期はつらい」と無意識下で体が警戒するので、気を張っていつも以上に疲れてしまう。あとは心がなぜかざわざわしたり、悲しくなったりする。

そのため、夏に何かしらのトラウマがあるという人は、特に注意してもらえたらと思います。

──夏のトラウマ体験も影響してくるかもしれないんですね。

そうですね。

あとこれは夏バテの原因でもありますが、ナトリウム不足にも注意が必要です。たとえ水をたくさん飲んでいても、ナトリウムが不足していると血液中に水分を保てなくなります。血管内脱水という状態になってしまうため、体がだるくなるんですね。そうすると、やはり気持ちも落ちてしまうので、夏季うつにつながる可能性があります。

──夏季うつになりやすい人の特徴は何かありますか?

体や心の調子を無視して頑張ってしまう人は、気をつけていただきたいです。やはりストレスや疲れは誰でもたまるものなので、それを放置したまま頑張り続けてしまうと、どこかで調子を崩してしまう可能性が高いと思います。

体や心のサインに早めに気づいて、ケアをしていくことが重要です。

自分の体や心を大事に!一人で抱えきれないときは相談を

──夏季うつにならないためにできる予防策を教えていただきたいです。

夏バテや熱中症などで体調を崩されている人は、まずはその治療をすることが何より重要です。体の不調から心の不調も起こしてしまうことはあります。その人の症状に合わせてお薬を出しているので、まずは心療内科などを受診していただければと思います。

また、ストレスを軽減する必要があるので、休みを計画的に多くしたり、誰かに相談をしたりすることが大切です。可能であれば、環境を大きく変えてストレスの原因を解消できるといいですね。

──なるほど。でも、休みながらも、悩みごとや心配ごとが常に頭にあるような感じがします。

そうですよね。そういう人も多いと思います。ただ、それだと自律神経的にはずっと緊張している状態なので、休んでいても夏季うつになってしまう可能性はありますね。

例えば、悩みごとや心配ごとを紙に書き出してみるのは効果的だと思います。頭の中だけでぐるぐると考えているのは、やはりストレスになるので、それを一旦外に出してみる。書き出すのが苦手な人は誰かに話すのもいいですね。

あとはマインドフルネスに近いんですが、リラックスできる姿勢で数字をひたすら数えてみてください。1から500まで3分ぐらい数えていると、その間だけは考えにとらわれなくなるはずです。このように、自分が抱えている役割やタスクを全部忘れる時間をとるだけでも、身体にかかるストレスは軽減できると思います。

──自分の役割やタスクを全部忘れる、ですか。

はい。ほかには、無酸素運動もいいですね。全力で走る・全力で叫ぶ・筋トレをするといった、力を出し切る運動をすると気持ちが落ち着く効果があり、これを「筋弛緩法」と言います。全力を出しているときは、悩みごとや心配ごと、役割、タスクなどを忘れやすいですからね。

よくいわれるように、ストレッチや有酸素運動をすること、マッサージ、読書などリラックスできる時間を作ることもおすすめです。とにかく自分にとって落ち着くものや心地よいものに触れる時間を増やしてもらえたらと思います。

──夏季うつかどうかはなかなか自分で判断しづらいですよね。

一般的なうつ病と一緒で、生活に支障が出る、もしくは心の不調が2週間ぐらい続いたら診察を受けに来てもらえたらと思います。「まだ大丈夫」と無理はしてほしくないですね。

──一人で抱えないないようにしてほしい、ということでしょうか?

そうですね。診察に来るのが難しければ、まずは身近な友達でもいいので話すようにしてもらえたらと。あとは休みを十分にとって、少しでも楽になる方法を実践してもらえたらと思います。

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佐藤純平

佐藤純平

1990年生まれ。フリーランスのライター兼ライフコーチ。うつ病で引きこもりの兄を持つ。

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