世界情勢や新型コロナウイルス、そして各地で起こる痛ましい事件――メディアからは日々、つらいニュースが流れています。それらの情報に触れていると、知らずのうちにマイナスの影響を受け、不安感が強くなったり、眠れなくなったりすることも。
ネガティブなニュースにどう向き合い、どう自己防衛をすればいいのか。
今回はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長である堤多可弘先生に、ネガティブなニュースでつらくなる原因やつらくなったときの対処法を詳しく伺いました。
ネガティブなニュースでつらくなるのはなぜ?原因を解説
──つらいニュースが流れる世の中です。精神科医という立場から、どのように向き合うべきか教えてください。
大前提としてお伝えしたいのは、ネガティブなニュースに触れるとつらくなるのは、人間として当たり前の反応であるということです。つらくなってしまう理由は3つあります。
1つ目は、「人はもともと高い共感性を持つ生き物だから」です。共感には主に「情動的共感」「認知的共感」「共感的配慮(同情)」の3つの要素があります。
- 情動的共感:感情を共有すること。映画などで主人公がピンチに陥ったとき、自分もドキドキするのがその一例。
- 認知的共感:他者の感情を理解し考えること。
- 共感的配慮:他者が苦しんでるときに何とかしようとすること。いわゆる「同情」。
このうちつらさの原因となるのは「情動的共感」と「共感的配慮」です。つらい思いをしている人を見ると、まったくの他人であっても共感して一緒につらくなってしまうし、「何とかしたい」と強く思ってしまいます。
これは人間と一部の知能が高い猿の仲間だけが持っている特徴です。共感は人間が繁殖できた一因でしたが、現代では反対につらさの原因となっています。
2つ目は、「人間としての本能によるもの」です。悲惨なニュースを見ると、人間は本能的に不安を覚えます。ウクライナ侵攻のニュースを目にすれば、似たようなことが自分に起きないだろうか、もし隣国が攻めてきたらどうしようという不安が想起されます。
こうした「危機の予測」によってこれまで人間は生き延びてきたので、生存戦略上当たり前の反応といえます。
3つ目は、「人は情報を常に判断しているから」です。人間は脳の大脳辺縁系で得た情報を全て有益か有害か瞬時に判断していると言われています。
爆破された街並みや泣いている子供、怪我をしている人々などのショッキングな映像を見ると、脳が危険であると判断し感情を強く揺さぶります。これが何度も続くと、判断する回数が増えて疲れますし、感情の中枢である扁桃体が異常興奮し、逆に脳の活動が制限されるということが起こります。
以上のように、ネガティブなニュースで自分がつらくなってしまうのは、人間として当たり前の反応であることをまずは認識してください。
その上でメンタルへのマイナスの影響は、同じニュースを見ても人によって大きく違います。元々の性格や自分の信念、生まれてから今までの経験や現在の環境などが大きく関わっているからです。周りが関心を持っているからといって、自分も周りに合わせて無理にニュースを見る必要はありません。
「ネガティブなニュース」にどう向き合うべきか?
──「見るとつらい」「不安になる」……そんなニュースに対して、どう向き合えばよいのでしょうか。
「つらくなる」という自覚があるならば、目に触れないよう、情報源自体をシャットアウトしてください。テレビは消す、ニュースサイトなどの通知が来ないように設定する、SNSのニュースを非表示にする、Twitterのユーザーやキーワードをミュートにする、ブラウザのトップページをニュースサイトにしない……などでしょうか。
──そこまでしなくてはならないのですね。
不安や悲しみなど何らかのメンタル不調を感じているのであれば、一度、徹底的に情報をシャットアウトしたほうがいいですね。気に留めていないようなSNSの端に現れる小さいニュースであっても、無意識のうちに脳が認識します。気をつけていないと次々に情報が入ってきてしまうのが現代です。
繰り返し繰り返し、刺激の強い情報が入ることで記憶が脳に固定化されてしまい、夢に出てくる、関連する文字を見るだけでつらい気持ちになる、そんな状態になってしまいます。
いかにつらいニュースを見る回数を減らすかが、大きな防御策になります。
もうひとつ気をつけてほしいのが、「ドゥームスクローリング(Doom scrolling)」です。
──どういうことでしょうか。
「ドゥーム」は英語で破滅や悲運を意味します。「スクローリング」はまさに画面のスクロールですね。悪いニュースを見つけると、もっと悪い情報があるんじゃないか、もっと知らなくては……と、画面をスクロールしながら調べる手が止まらなくなる。誰しも身に覚えがあるのではないでしょうか。
ドゥームスクローリングもやはり人間の生存本能に直結しています。常に野生動物に狙われる原始生活であれば、危険察知のために悪い情報を集めるのは有益です。
しかし、現代で私たちがWebで集める情報は、今すぐ生存に影響するものではありません。つらくなるだけなので、調べるのを意識してやめる必要があります。