私たちにはそれぞれの人生や生活があり、一人ひとりが悩みを抱え、個々人で支え合って生きています。
しかし資本市場では「個人の価値」は「経済的価値に換算」され、一人ひとりが持つ感情には、なかなかスポットライトが当たりません。
多様な生き方が推進される昨今で注目されているのが、不安や悩みを言葉にすることで解決のサポートをし、自分自身を見つめ直すきっかけづくりにもなるオンラインカウンセリングです。
今回は、オンラインカウンセリングやコーチングを主軸事業とする「株式会社cotree」の代表取締役・西岡恵子さんに、cotreeの代表に至るまでのキャリアの変遷やメンタルヘルスケアの今後についてお話を伺いました。
子ども時代、苦悩の先にあった「ありのままでいられる場所」の輝き
──まずは、自己紹介をお願いいたします。
株式会社cotreeにて今年の1月から代表取締役に就任しました、西岡恵子です。
cotreeは「やさしくて頼れる隣人」として、一人ひとりが自分の物語をよりよく生きるための支えとつながりをつくりだすことをミッションとしています。オンラインカウンセリングを主軸事業とし、累計5万人を超える方々に広くカウンセリングをお届けしています。
──西岡さんの今までの経験や経歴について教えてください。
新卒で森永製菓へ入社し、サイバーエージェントやコネヒト社での事業責任者経験を積みつつ、フリーランスとしてさまざまな課題を抱える企業様の支援をしてきました。
「誰もが自分らしい生き方ができる世の中を創る」をモットーとし、環境は違えど誰かの一歩を踏み出す、前を向くきっかけを提供するべく活動をしています。
──最初に入社されたのが食品メーカーなのは意外です。幼少期からの出来事も含め、どのような想いがあったのでしょうか?
私は今も昔も変わらず、「自分自身がありのままでいられる瞬間や場所を提供したい」と思っています。
実の父親から愛情を受けず、小学校に入る前に両親が離婚。そして、再婚後の父親も病死するという環境で育ち、幼少期から社会での生きづらさを感じてきました。「自分は普通ではないんだ」という感覚を幼少期から持っており、「誰にも本当の自分を見せたくない、見せられない」とも思っていました。
高校までは、マジョリティになるべくそれぞれのコミュニティに適合できる理想の自分を必死に作り、苦しくても誰にも「助けて」と言えない日々を過ごしていたんです。
──誰にも本音を曝け出せないのは、つらい日々ですよね……。
「私って誰なんだろう、誰の目を気にしているんだろう」と思いながら、自信を持って自分の名前を名乗れないような時期が続きました。
しかし、初めて理想の自分に届かなかった大学受験失敗という経験をしたときに、自分を隠すために掲げ続けていた「理想の自分ってなんだったんだろう?」と考えるように。私にとって大学受験失敗は、自分らしく生きることに向き合うきっかけとなりました。
当時、「自分がありのままでいられたシーンってどんなときだったんだろう」と過去の体験を振り返ってみると、どんなにつらくても家族で食卓を囲んでいるときが、ありのままの感情を出せていた瞬間だったなと思ったんです。
──食卓での団らんこそが、自分がありのままでいられる場所だったんですね。
はい。自分の経験から、日常の中で誰しもにある家族での食卓をより幸せが増幅する時間にしていきたいと思い、食品メーカーを志し森永製菓に入社しました。小売業様へ営業や企画を行い、5年半でさまざまな経験をさせていただきました。
さらにチャレンジを広げるためにサイバーエージェントに転職し、「食品業界を外側から盛り上げたい」という想いのもと、食品メーカー担当としてマーケティングを行ってきました。
──サイバーエージェント入社後も、食品メーカーとの関わりは大切にされていたんですね。
食品という軸はずらさず、関わり方を変えた形です。「自分らしく生きられる人や瞬間を増やしたい」とは当時から変わらずに思っていました。
2社での経験や異なる組織での多くの人との出会いを経て、「原体験を活かした直接的な人生の支援、前を向くきっかけの提供をしていきたい」と思い、一人ひとりの理想とする家族像の実現をサポートするコネヒト社に転職。そこから新しい人生の選択肢の提供や自分らしい生き方・働き方の実現に向けた課題解決など『人と社会』に向き合ってきました。
両親の離婚や死別など、原体験が強すぎたため、最初から直接的な人へのサポート、メンタルヘルスケアの領域に関わる仕事をする覚悟がなかったのもあります。
私が成し遂げたい想いは全く変わっていませんが、誰もがありのままでいられる瞬間を生み出すために食品というツールを使い自信を培いながら、自分にしかできないと思えることに挑戦してきたというのがcotree参画までの私です。
「原体験を持つ自分だからできること」。cotree参加後4ヵ月での代表就任
──西岡さんがcotreeの代表取締役に就任を決めた理由を教えてください。
活動を広げる中で「自分にしかできないことって何だろう?」と考えていた時期に、cotreeの創業者であり代表取締役である櫻本真理さんがこれからのcotreeの未来をリードしていく人材を探されており、知人を通じて出会いました。
「原体験が活きる環境にコミットしたい」と思ってた私にとって、cotreeのミッションやビジョン、櫻本さんの考え方に強く共感し、新しいチャレンジをさせていただく覚悟を決めました。
──cotreeの「自分の物語」というキーワードは、西岡さんが掲げている「誰もが自分らしい生き方ができる世の中を創る」とのモットーと強いシンパシーがありますね。
まさに、その通りです。原体験を経てこのミッション・ビジョンを掲げるcotreeの未来を創っていくということには、使命感を強く感じることができました。
──1月から代表就任ということは、参加からたった4ヵ月での出来事だったんですね。
自分でもスピードが早く不安もありましたが、すぐに覚悟は決まりました。
理由としては、cotreeを外から見ていたときに抱いていたイメージと、実際に中に入ったときに感じたcotreeに関わる方々みんなの想いがまったくぶれていなかったことが大きいです。「大事にしているものがしっかりと事業に現れている会社だ」と想い、私個人・会社・働いている人のビジョンがすべて合致していて、強さを感じました。
「原体験を活かし自分にしかできないと思えることをストレートにできる環境だ」と思えたことと、「新しいフェーズのcotreeにおいて今まで培ってきたスキルを活かせる部分が多くあるのでは」という気持ちから、「この会社で代表としてやっていく」と強い使命感を抱きました。
また、このような環境で育った私が経営者として働いていくこと自体にも、経済格差が深刻化している日本において社会的意義も感じられましたね。
──西岡さんからは「悩める人のロールモデルになりたい」という気持ちを強く感じます。
その気持ちはあります。会社としても、事業としても、個人としても、「少しでも誰かの前を向くきっかけになりたい、背中を押す瞬間を作りたい」とは、ずっと思っています。
社会や数字から、個人や感情にフォーカスする世の中へ
──cotreeでは、オンラインカウンセリングやコーチングを通したメンタルヘルスケア事業を展開されています。西岡さんにとって、日本の「メンタルヘルスケア」や「孤立」というものに対し、どのような課題があると認識していますか?
- 誰かを頼りにくい
- マイノリティが排除されやすい
この2点はとくに強く認識しています。日常生活の中でもっと心を打ち明けやすくなり、自分らしく生きられる世の中になればいいのに……とは常々感じていますね。
──メンタルヘルスケアにおいて、課題となっていることは何だと思いますか?
社会や世の中のような大きな主語ではなく、一人称にもっと寄り添える環境になったらいいなと思います。最近だとコロナの陽性者数に代表されるように、世の中では統計学的に数字で括られることが多いですよね。
例えば、今日は陽性者が何百人ですとか、精神疾患を抱えている人は人口の何%ですとか。
数字は確かに俯瞰的にはわかりやすいですが、括られている一人ひとりにも人生があって、一人ひとりの物語があり、要約して語りきれないこともたくさんあると思います。
「当たり前」や「平均」のような考え方だけで社会を把握するのではなく、個人の人生や感情への寄り添いも大切にできる社会になれたら、孤独や孤立などの問題がなくなっていくのではと考えています。
──とくに若い世代の方々は、平均や普通を目指しがちのように感じます。
現代は、情報がすぐに収集できるため、「世の中でなんとなく決められている幸せ」に近付く方法がたくさん見つけられます。もちろん、自分で選んだ方法であれば間違いではありません。しかし、自分らしいプロセスというものは一人ひとりに用意されているはずです。
平均点を取りに行くだけではなく、苦しみながらも自分らしい道を歩いていくのも自分らしい生き方です。「うまく行かなくてもそれこそが自分らしさ」だと自分で自分を受け止め、コミュニティの中でもそれを認め合えるような社会になると、息苦しさがなくなっていくのではと思いますね。
──個人にフォーカスし、認め合える社会になるために必要な要素は何だと感じますか?
「開示」は重要なキーワードだと思います。抱えている想いやモヤモヤした気持ちを言葉にするだけで、悩みが解決したり理解をしてもらえるきっかけになったりしますよね。
自分のとても深いところを話すことは体力のいることですので、安心して話せる居場所を創る必要があると思っています。cotreeではオンラインカウンセリングという、安全に自分への理解を深める場所をつくることで、新しい一歩を踏み出すためのきっかけを提供しています。
「メンタルヘルスケアの新しい当たり前」をつくる
──cotreeの今後のビジョンについて教えてください。
cotreeは今年サービスリリースから8周年を迎えて、220名以上のカウンセラーが在籍し、ご利用件数も89,000件を超えました(2022年2月時点)。メンタルヘルス領域のリーディングカンパニーとしてメンタルヘルスケアのインフラを創造していきたいと思っています。
cotreeの主軸事業であるカウンセリングやコーチングは、治療とウェルネスをつなぎ、かつ個人や組織の成長・変容へと導くものだと思っています。暮らしや働く場でのメンタルヘルスケア自体の中核を担っている要素だと認識しているため、インフラを築くための土台が整い始めていることを感じています。
cotreeでは企業様や大学様向けのプランもご提供開始しており、組織という枠組みの中で自分と向き合うきっかけ、ちょっと自分の心に違和感を感じたらいつもの環境の中で安心できる場所がある状態を創っていくサポートをしています。
cotreeの今まで築き上げた土台をもとに、目まぐるしく変化をする”今”にあった一人ひとりへの寄り添いの幅を広げつつ、それだけでなく個人が身を置く組織の中でのメンタルヘルスにおける新しい当たり前を創っていく挑戦をしていきます。
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