HSP(Highly Sensitive Person)とは、生まれつき非常に繊細で敏感な気質をもった人のこと。アメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念で、約5人に1人はHSPを抱えているという。
参考:サワイ健康推進課「心が疲れやすくて生きづらい…それは「HSP」かもしれません」
幼い頃から生きづらさを抱え、「私はおかしい。普通じゃない」と自己否定をしていたももさんは、30歳のころにHSPという性質を知り、その後の生き方が大きく変化した。
ももさんがHSPについて学び、生きやすい環境をつくるために意識したことはなんだったのだろうか。
「自分はおかしい」強い自己否定を生み出した生きづらさ
昔から大きな音が苦手だったというももさん。幼稚園でのお遊戯会や小学校の運動会で鳴るような大きな音楽、学校の先生が怒るときに張り上げる大きな声など、日常生活の中の大きな音に対して過剰に反応してしまう一面があったという。
「私には、小さな頃から『自分はちょっと人と違うような気がする』と感じる場面が多々ありました。大きな音に過剰な反応を示す人が周りにいなかったこともありますし、ほかにも人の機嫌や顔色ばかりを気にして気を遣いすぎる、誰かが言った些細な言葉に過剰に反応して考えすぎてしまうなど、変わった性質が多かったように思います」
いつしか、そんな自分を「私はおかしい、普通じゃない」と否定するようになっていった。そんな自己否定は社会人になってからも続いた。
「社会に出てからはとくに、人がたくさんいる場面に不快感をもつことが増えました。苦手だと感じる人がいると、もう会社に行きたくないという思いが強くなり、毎週日曜日の夜には心が嫌な気持ちでいっぱいになることもありました」
また、環境の変化に敏感な部分も生きづらさを感じる要因の一つだったという。
「小さな変化にすら過剰なストレスを感じてしまう私にとって、コロナ禍での大きな環境の変化は耐えがたいものでした。働き方や生き方の変化に大きなストレスを感じていました」
長年抱えていた生きづらさの正体は『HSP』だった
ももさんがHSPという性質を知ったのは、30歳のころ。インターネットで「生きづらい」と検索をかけたことがきっかけだったという。
「銀行に勤めていた26歳のころ、社内のパワーハラスメントやハードワークによる過労が原因でメンタルダウンを経験しました。そのメンタルダウンを乗り越え、より一層強くなった30歳の私は大手人材会社へ営業職として入社したんです。憧れていた会社で、高い評価をいただいて入社したこともあり、そのころは自分に自信がついていました」
モチベーション高く入社した会社にもかかわらず、1ヵ月が経つころには「もう辞めたい」と考えることが増えていった。
「いい人ばかりでしたが、人の顔色や心の内を敏感に感じ取ってしまう私は、誰にも心を許せず、もやもやを抱えることが増えていきました。法人営業だったこともあり、商談独特の空気感や雰囲気に気疲れするなど仕事内容の面でもストレスが多く……。そんなときに、インターネットで『生きづらい』と検索しました」
検索結果に出てきたHSPの特徴を読み進める中で、「これは、まさに自分のことだ!」と驚きを隠せなかった。
「自分が生きづらさを感じていたのはHSPという性質のせいなんだと腑に落ちた部分が大きく、自分の生きづらさはおかしいことではなかったんだと安心したことを覚えています。自分の性質を否定して生きてきましたが、HSPという性質があることを知ってはじめて自分が肯定されたような気持ちになりました」
ももさんが、HSPについて学び始めるまでにそう時間はかからなかった。
▼精神科医・前田先生のコメント
HSPは「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」の略称で、アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念です。生まれつき感受性が強く、人よりも敏感な気質を持つ人をいいます。
HSPの人は音や匂いなどの物理的刺激に敏感になる、とよく聞くのではないでしょうか。また、物理的刺激の他にも、人の感情の変化にもより敏感になるのもHSPの性質のひとつです。ちょっとしたことで「怒らせてしまったのではないか」「嫌われてしまったかな」と気になってしまう人も多いです。 おそらくももさんもHSPの気質を持っています。そのため、他人の心の内を敏感に感じ取ってしまったのでしょう。 |
『自分を知ること』が生きづらさ解消への第一歩
HSPについて学び始めたももさんは、とにかく知識を吸収し、自己理解を深めたという。
「色々な本を読んでHSPについて学びました。その中で、自分がもやもやを感じる部分を明らかにするために『コンプレックスリスト』をつくりました」
コンプレックスリストとは自分の持つもやもや(コンプレックス)を列挙したもの。自分を客観視するためだけでなく、今後の対策を考えることにも役立った。同じ病気でも症状が違う場合があるように、HSPも人によって特徴がある。まずは自分の特徴をつかむことで、生きづらさの原因を探し出すことに注力した。
「自分が嫌だと感じること、心地よさを感じることを明確にしておけば、事前にネガティブな刺激を受けないように対策でき、もやもやを抱えたときの対処法を見つけられます。私の場合は、人間関係の中で人とのベストな距離を保ったり、1人の時間を作って自分と対話する機会を確保したりすることで、日常の刺激から自分を守り、ケアしています」
自分の思考を整理することにも役立っているTwitterには、約2万人のフォロワーがいる。
「Twitterの投稿はHSPやメンタルダウンで生きづらさを感じていた7年前の自分に対して、語りかけるような気持ちで書いています。私と同じようにHSPのネガティブな面に苦しむ人たちの力になりたいという思いはもちろんありますが、日常的に自分の思考の整理や気持ちの客観視にも役立っています」
嫌な刺激を減らし、良い刺激を増やすことが鍵
ももさんは、自分の持つ性質を知っていく中で、HSPの繊細さは悪いものばかりではないことを知ったという。
「HSPの繊細さは悪い刺激にばかり反応するわけではないことを知りました。たとえば、昔から街を歩いているときに木や花が風に揺れる風景や、雲一つない青空、音楽や絵画などの芸術作品に感動することがたくさんあったのですが、それはHSPの繊細さが生み出しているものなんだとか。人の痛みに強く共感したりと、感受性が豊かな面もそうです。振り返ってみると、私にも豊かな感受性や感動的な部分がありました」
自分の性質に生きづらさを感じる反面、日常の中での些細な美しさを人よりも敏感に察知できるポジティブな面もたくさんあった。自分にとってポジティブな刺激とネガティブな刺激を理解することが、生きやすい日常を作ることに役立つ。
「私は、ポジティブな刺激にたくさん触れられるように、できるだけ自然豊かな場所へ行くようにしています。逆にネガティブな刺激にはできるだけ触れないように、対策を練ることも重要です。私のようにHSPでの生きづらさで自分を責めることだけはしないでほしい。あなたは何も悪くないんです。
HSPの生きづらさは刺激のコントロールで薄めることができます。まずは、自分にとって良い刺激と嫌な刺激を知ることが重要です」
「HSPによる生きづらさを一生抱えていくのか……」と苦しんでいる人は多いだろう。しかし、刺激をコントロールすることで生きづらさを感じる場面を減らすことはできる。
あなたは悪くない。まずは、ももさんのように自分の性質を学ぶことから始めてみよう。
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