目まぐるしい社会情勢の変化による不安や、仕事・人間関係でのストレスを抱える人が多い現代。そんな時代背景もあってか、近年HSPという言葉を耳にすることが増えたのではないでしょうか。
今回は「ビジネスパーソンとHSP」をテーマに、和クリニック院長である精神科医の前田先生にお話を伺いました。
【前編】HSPを抱える会社員・ももさんの取材記事はこちらから
最近よく聞くHSPとは?
──HSPとはどのような性質なのでしょうか?
HSPは「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」の略称で、アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念です。生まれつき感受性が強く、人よりも敏感な気質を持つ人をいいます。
HSPの人は音や匂いなどの物理的刺激に敏感になる、とよく聞くのではないでしょうか。また、物理的刺激の他にも、人の感情の変化にもより敏感になるのもHSPの性質のひとつです。ちょっとしたことで「怒らせてしまったのではないか」「嫌われてしまったかな」と気になってしまう人も多いですね。
──HSPは生まれつき持っている性質だと聞きますが、後天的に生じるケースもあるのでしょうか?
HSPは基本的に生まれつきのものです。しかし、感覚過敏はHSPだけに起こりうる症状ではないため、後天的に起こりうる可能性も十分にあります。例えば、統合失調症。この疾患によって聴覚過敏になる人は多いです。
後天的に感覚過敏が生じるケースで私が注目しているのは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)によるものですね。過覚醒といって、少しの刺激にも反応してしまう状態になります。トラウマによって感覚過敏が起こる可能性はあるといえるでしょう。
このように、HSP以外にも感覚過敏が起こることはあります。自閉スペクトラム症やADHD(注意欠如・多動症)なども感覚過敏の要素があると、臨床にいて感じますね。
──なるほど。「自分が実際にHSPなのか否か」を知るための尺度や検査などはありますか?
現時点でHSPだと診断できる尺度はありません。WHOによって国際的な診断基準として定められている国際疾病分類にも、HSPは含まれていない状態です。
──そうなんですね……!では、病院でHSPと診断されるケースはないのでしょうか?
医学的根拠がないと医療行為ができないので、診断もできません。しかし、自分自身がHSPかどうかを知るための自記式検査はあります。医療的介入が可能かどうかについては、まだまだ開発中です。
参考:自己肯定感ラボ HSPは自己診断できる? セルフチェックリストの信頼性は?
セルフチェックリストは自記式で主観が入るため、客観性が保たれない不確かさもあります。あくまでHSPの可能性の有無や今の自分の状態を知る目的で使用すると良いでしょう。
「私、HSPかも?」と感じた人がとるべき対策
──自分がHSPかもと感じたとき、最初にすべきことはありますか?
現在HSPを治療する薬はないため、生活環境や周囲との付き合い方をうまく改善し、ストレスを減らしていくことが大切です。まずは、「どういうときに自分のコンディションが悪くなるのか」「どんなものに敏感に反応しやすいのか」という自分の状態を把握していくと良いでしょう。
その傾向を元に、人と関わることを少し減らしてみたり、思い切って働き方を見直してみたりといった行動に移していきます。もちろん、カウンセリングで一緒に考えていくことも可能です。
──なるほど。人によってHSPとの付き合い方や対策は変わってくるものなのでしょうか?
おっしゃる通りです。何に過敏かは全員同じではないため、ひとつの対策が全員に効果的かというとそうではありません。
ポイントは、体調と気持ちを分けて考えること。頭痛・吐き気・めまいなどの身体的症状はわかりやすいですが、疲れやストレスなどの精神的症状は自分のことであっても把握しにくいためです。
HSPという“性質”とうまく付き合っていくためにも、体調と気持ちを分けて考え、自分がどういう状態なのか、どんな刺激に弱いのかなどを把握することは必要不可欠となります。
──あくまでも性質であるHSPは回復したり、治ったりするものではないのでしょうか?
HSPが病気ではなく性質である以上、「治療する」ことはできませんし、その対象でもありません。しかし、良い状態を保つためにコントロールすることは可能です。
HSPの人は自分にとって良い情報も悪い情報もキャッチします。自分の好きなものやワクワクするものを受け取ることは良い状態を保つことにつながるのです。逆に自分にとって悪い情報は状態の悪化につながってしまうので、取り入れない工夫をすると良いですね。
──「良い刺激」もあるんですね!これから先HSPとうまく付き合っていくために、短期的&中長期的にすべきことはありますか?
短期的にはやはり自分の良い状態、悪い状態を把握することが大切です。その上で、“緊張しない状態”を少しでも作ってみましょう。頑張らない練習をするイメージです。
人に会うと疲れてしまうのであれば少し人から離れてみても良いですし、1人になって休んでみても良いです。これだけでも受け取る情報は減ってくるので、頭のデトックスになります。HSPの方は無理しやすいので、無理して情報を入れない時間を作ると良いですよ。