読書が私をメンタルダウンから救ってくれた。「読書療法」に学ぶ、心をラクにする7つのステップ

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「読書療法(ビブリオセラピー)」とは、読書を用いて行う心理療法。日本ではまだポピュラーではありませんが、海外では医療に取り入れられるケースも多いのだそう。

うつ病などのメンタルダウンでは読書から離れていってしまう人も多い中、今回インタビューをした日本読書療法学会会長の寺田真理子さんは、読書によってうつ病から回復した経験を持つといいます。

今回は「読書を通して心をラクにする方法とは?」をテーマに、読書療法について詳しく話を伺いました。

海外ではポピュラーな場合も。「読書療法」は心理療法のひとつ

画像提供:寺田 真理子さん

──寺田さんが推奨している「読書療法」とはどのようなものなのでしょうか?

読書療法は一律の定義がない療法です。私が会長を務める『日本読書療法学会』では、「読書によって問題が解決されたり、何らかの癒しが得られたりすること」と広く定義しています。

日常的なところでいうと、「片付けが苦手な人が整理収納に関する本を読んで、片付けができるようになった」「ダイエット本を読んで痩せることができた」も読書療法です。また「長年親との人間関係に悩んでいた人が、同じような境遇にある主人公の小説を読んで問題を解決できた」というように深いテーマと向き合うこともできます。

心の問題だけでなく、行動や身体的な変化まで幅広く効果が期待できるのが読書療法です。

──読書療法はまだあまり広く知られていない印象があるのですが、寺田さんから見てどう感じますか?

2021年に『心と体がラクになる読書セラピー』という本を出版させていただいたのですが、当書をきっかけに徐々に読書療法の認知度が高まってきましたね。しかし他の国に比べると、読書が心や身体の回復を助ける手段となる認識を持つ方は、まだまだ少ないと思います。一般的には楽しむため、スキルアップのための読書という認識が強いです。

──日本はまだまだ読書療法の認知度が低い国なんですね。読書療法が盛んなのはどういった国なのでしょうか?

例えばイギリスです。図書館に行くと、今の自分の症状に合った本を紹介してもらえます。イギリスでは「読書は心や身体の回復を助けるものである」という認識が強いので、紹介よりは処方という言葉のほうが合うかもしれません。

同じくイスラエルも読書療法が盛んです。読書療法家が国家資格になるほど、活躍の幅が広がっています。精神科医や他の専門家がどう対処すれば良いかわからないとき、読書療法家が頼りにされていることも多いようです。

子どもの頃の経験や過酷な仕事環境が重なり、うつ病を発症

画像提供:寺田 真理子さん

──寺田さんがうつ病になった原因や、当時の状況について教えてください

うつになった直接の原因は仕事にあります。私は当時外資系企業での通訳をしていました。同時通訳の場合、2〜3人のチームを組んで10〜15分で交代しながら通訳するのが一般的です。通訳はそのくらいの時間しか集中力が持たない仕事だといわれています。

しかし、私は交代なしで8時間業務をするなど、かなり無理をしていたんです。そのような働き方をすると、脳がオーバーヒートして1週間はぼーっとしてしまいます。過酷な仕事環境が、自分自身を消耗させていましたね。

また、自分の通訳によって不幸になってしまう人を目の当たりにしたことも原因のひとつです。企業買収の場合、買収した先の方が職を失ってしまうこともありました。私の考え方の癖もあるのですが、「私の行動が誰かを不幸にしてしまった」と思ってしまって……。「自分の通訳によってコミュニケーションが活性化されること」が励みとなっていたので、かなりつらかったです。

──過酷な仕事環境と、仕事のやりがいを見失うことが重なったのですね……。「考え方の癖」とおっしゃっていましたが、具体的にどういったものですか?

子どもの頃から「どうして私がこんな目に合わなければならないんだろう?」「日本の社会でうまくやっていけない……」という後ろ向きな考え方をする癖がついていました。育ってきた環境や経歴が要因のひとつです。

私は幼少期にメキシコで育ち、小学生のとき日本に来ました。日本語が話せない、生活習慣が違うといった理由でいじめられることも多く……。数年経ってようやく日本での生活に慣れてきたときに、コロンビアに行くことになりました。そこでは狙撃やゲリラ集団による脅迫が日常茶飯事。危ない目に合うことが多く、過酷な環境でしたね。

思考の癖から変えていく!読書療法で心が回復する7ステップ

画像提供:寺田 真理子さん

──うつ病を発症したとき、読書療法を選択した理由を教えてください

当時は起き上がることもできなかった私にとって、読書は負担が少ない行動だったからです。うつ病で情報処理能力が落ちてしまっているとき、情報量が多いものはどうしても疲れてしまいます。一見手軽なWebメディアなどの電子媒体は情報量が多く、私には合いませんでした。本が最適でしたね。

最初は画集や写真集から読み始めました。文字が少ないものは苦しくならずに読めましたし、色鮮やかなものが負担に感じたときはモノトーンの画集を見るなど、自分の状態に合わせて工夫をしながら取り入れていました。

画像提供:寺田 真理子さん

──読書療法によってうつ病から回復できたきっかけなどはあるのでしょうか?

最初は「寝ていることしかできない私はダメだ……」と自分を責めていました。ある日読んだ本で「ちょっとでも良くなったことに目を向ける」という考え方を知ってから、できたことに目を向けるようになりましたね。

「今日は5分起きていられた」「昨日より文字の多い本を読むことができた」など、本当に小さなことでも認めてあげるんです。後ろ向きだった思考が徐々に変わってきて、前より生きやすくなったなと感じ始めました。

──読書療法は思考の癖を変える効果も期待できるのですね!読書療法を始めていきなり思考の変化を目指すのは難しいと思うのですが、段階などはありますか?

読める本によって回復過程を7つのステップに分けています。

私自身、このステップで徐々に回復していきました。読める本の幅が広がるたびに新しい発見がありましたし、出会う人や環境、そして思考も変わっていきます。「幸せな人は生まれたときから幸せなんだ」「恵まれた環境にいると成功するんだ」といった固定概念が払拭され、「幸せな人は『何があっても幸せに生きること』を自分で選んでいる」という考えに変わりました。

──気分が落ち込んでいるとき、読書療法を取り入れるにあたって注意すべき点はありますか?

自分の状態に合った本を選択して、決して無理はしないことです。多くの人がやりがちなのは、落ち込んでいるのに無理に明るい本を読むこと。自分の心の状態とのギャップを感じてしまい、挫折の原因になってしまいます。

暗い気持ちのときは同じように落ち着いたトーンの本の選択を勧めています。徐々に気持ちがのってきたら明るい本を選択するなど、幅を広げていくと良いですね。

画像提供:寺田 真理子さん

──最後に、現在文字が読めないことでつらさや苦しさを感じている方々に向けてメッセージをお願いします!

読書療法は無理にする必要はない、ということを伝えたいです。本の良いところは、「待っていてくれるところ」だと思います。本は読み手の状態が整うまでそこにいてくれる存在なので、自分の気持ちが本に向かうようになったら読んでみてください。

また、本は自分の心と1対1のコミュニケーションができるものです。読む側の本質に迫ることができると感じています。精神的な支えになると私自身実感したので、読める状態になったら興味がある本を手に取ってみてはいかがでしょうか。

木村 彩華

木村 彩華

関東・関西で2拠点生活をするフリーランスクリエイター。娘(1)をお家でみながらお仕事しています。家族と写真と旅行が好き◎

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