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ご自愛は頭で考えると難しい。行動を積み重ねてコツをつかむことが大切
──本のタイトルにも含まれている「ご自愛」という言葉は、一般的には他人に対して使いますよね。「セルフケア」ではなく「ご自愛」という言葉を使ったのには何か理由があるのでしょうか?
竹内さん:「ご自愛」は確かに他人に対して使うことが多い言葉ですが、自分に対して使ってもいいんじゃないかな、と。それに海外だとセルフケアやセルフラブといった「自分を大事にすること」を意味する言葉がありますが、日本だとあまりないなと感じていて。自分を大事にすることよりも、「自己犠牲精神」のほうが偉い、美しいみたいな風潮がまだあるじゃないですか。だから自分に対する「ご自愛」が日本にも浸透していけばいいなという希望も込めています。
ゆうすけさん:ご自愛っていい言葉ですよね。
竹内さん:そうですよね。前作の『がんばらなくても死なない』を出版したときに、すごく元気に見える友達から「共感した」「実は、私も具合悪くて」みたいな話をちょこちょこ聞いていて。
「意外とみんな自分のことをないがしろにして、他の人や社会のことばかりケアしているんだな」と気づいたんです。ゆうすけさんとお会いして、私は何より人に優しくするためには、まず自分に優しくして良い調子をキープすることが大切だと考えるようになりました。みんながもっと「ご自愛」していけば、より他人に優しくなれる人が増えるだろうなと思っています。
ゆうすけさん:ただ自分を愛することって、すごく難しいですよね。
竹内さん:うん、本当にそうなんですよ。一歩間違うとわがままというか、自己中心的にも思えるので。
ゆうすけさん:「自分を愛するってどういうこと?」みたいに思う人も多いんじゃないかな。
──本の中では「ご自愛はマインドだけではなく、行動とその積み重ねによって培われる部分も多いのだろうと感じています」と書かれていますよね。
ゆうすけさん:そうですね。そう考えていたほうが再現性があると思うんですよね。
竹内さん:ああ、そうですね。
ゆうすけさん:どれだけ「自分のことを愛しましょう」「自分のことを許しましょう」とマインドだけに訴えかけても、それだけで変われる人ってほとんどいないと思います。それができれば苦労しないよ、と。
竹内さん:私も行動を通して、「ご自愛」とはどういうことかという実感が養われてきたと思います。
ゆうすけさん:ご自愛ができるようになっていく過程やヒントを、行動している患者さんから教わっているんですよね。
──なるほど。患者さんと一緒に、患者さんにとってのご自愛を考えるみたいな。
ゆうすけさん:エビデンス的なことはもちろん大事ですが、ご自愛の方法は、本来は一般化しきれないものだと思っています。自分を愛するというのは、自分の人生の手綱を自分の手に戻していくことでもあると思っています。周囲の目や期待、社会的な価値から離れたところにある、自分だけの正しさや自分だけの心地よさをちゃんと感じ、「これがいいんだ」と確信できることが自分を愛することなんです。
竹内さん:うん、うん、本当にそうですね。
ゆうすけさん:だから本の中には、まるっきり矛盾したことをあえて書いてるんですよ。最終的に自分はどれがいいと感じたのか選べるようにしたというか。
竹内さん:自分にとってどれが心地よいのか、どれが好きなのかがわかるようになることが大切ですよね。私がうつっぽくなっている時期にご飯が食べれなかったのは、何を食べたいかがわからなかったということでもあると思っています。
ゆうすけさん:そう。でも多くの人は自分の感覚を信頼できないんですよね。だからネットで調べたり、本を読んだりして、「最適なこと」をやろうとしてしまう。でもそれは本末転倒というか、エビデンスに習って行っているだけなので、自分の軸ではないですよね。一時的には正しいかもしれませんが、本当の「ご自愛」からは遠のいてしまうんじゃないかなと思っています。
竹内さん:うん、そうですね。
ゆうすけさん:だから『万年不調から抜けだす がんばらないご自愛』には科学的なことはちゃんと書きつつも、「それは一旦置いておいて、自分の好きなことしなよ」ということも書いてます。頭で考えたことだけではなく、動物的な直感というか、体の感覚というか。エビデンスと自分の感覚のバランスを取ることがご自愛の最終的なゴールになるんじゃないかなと思っています。
「なんとかなる」と、ゆるい希望を持ってご自愛を
──あぁ、今の時代的にもご自愛が大切な気がしました。生き方の正解みたいなものがわからなくなっているからこそ自分の感覚を大切にするというか。
竹内さん:確かに大企業に定年まで勤めて退職する正規ルートみたいなものがなくなってきていますよね。だから本当はどうしたいのかというのを自分で納得しながら選んでいくしかないのかなと。一方で情報は溢れていますし、色んな人の生き方が見え過ぎてしまう。そうすると、余計に自分の感覚を見失ってしまう。人生のいろいろな物事を決断するときに、自分に対して「どうしたい?」と聴く力は、これからますます必要になるんじゃないかなと感じています。
──大事な決断をするときでも、日常生活のご自愛が役立つ。
竹内さん:うん、そうだと思います。
ゆうすけさん:お釈迦様も言っているとおり、生きることは基本的に苦しさがともなう。だから、こんなビターで、スパイシーな世界を生きてるということは、それだけですごいことだなと思います。何のために生きのびているのかわからない人もきっと多いでしょうけど。「だよね」って感じです。
竹内さん:みんな「だよね」と思いながら、なんとかやっていると思います。本当に忙しくて、もういっぱいいっぱいな人が多いはず。
ゆうすけさん:「生存基礎配点制」ということを本の中に書きましたが、ぼくのお気に入りの考え方です。「今日生きのびられただけで60点は確保」というものですね。
竹内さん:これをお医者さんが言ってくださるインパクトは大きいですよね。「まぁ、医者が言うんだったら、間違いないか」みたいな。そういう信頼感があると思います。
──確かに。お医者さんに言われると心強いですね。
竹内さん:ゆうすけさんは、考え方がヘルシーだなといつも思います。私は逆で「なにか闇を抱えている」と言われ続けて生きてたんです。全然タイプが違いますが、その闇の部分をヘルシーな人に受容してもらえたので、すごく良い出会いだったなと。
ゆうすけさん:誰しもが闇の部分は抱えていて、それも個性なんですよね。でも一方で、光の部分も必ずあるんです。あまりにも不条理なことが続くと、そういう余地が残されていないと思ってしまうものです。それは自然なんですよ。だから別に今すぐ向き合わなくても全然いいかなと思います。
竹内さん:私もうつっぽくなっていたときは、闇一色って感じでした。
ゆうすけさん:ただご自愛しようと思えるようになったら、それは光が差してきたということ。自分を変えるための大きな力が湧いてきているということなんだと思うんですよね。
竹内さん:うん、本当にそう。なんとかしようとしてる時点で、なんとかなっていく。そういうゆるい希望をみんな持って、生きていてほしい。
ゆうすけさん:そうですね。しんどいときほどセルフケアって難しいから、どうかがんばらないでご自愛してほしいですね。
竹内さん:みなさん、ご自愛ください。