「生理の不調…それってPMS・PMDDかも」。100名の悩みをもとに、産婦人科医が生理の不調について解説!

ウェルビーイングを保つために大切にしていること

近年、PMSはメディアで頻繁に取り上げられ、認知度が高まっています。しかしPMDDはまだ認知が追いついておらず、「PMSとPMDDの違いがわからない」という意見や「PMDDはPMSが重症化したもの」という誤った見解も見受けられます。

そこでmentallyでは2022年8月、100名の男女を対象に「PMS(月経前症候群)・PMDD(月経前不快気分障害)に関するアンケート」を実施。

株式会社Mentally 「PMS(月経前症候群)・PMDD(月経前不快気分障害)に関するアンケート」 2022年8月

アンケートの回答を踏まえ、PMSとPMDDの違いや対処法、病院を受診する際の流れ・注意事項を、産婦人科医の高橋怜奈先生に伺いました。

PMS・PMDDはどんな病気?違いと対処法も解説

──最初に、PMSとPMDDがどのような病気か教えてください。

PMSは生理の3〜10日前から始まる身体的または精神的な不調で、生理開始とともに症状が改善します。症状は200種類以上あるといわれ、頭痛・便秘・肌荒れ・下腹部痛・胸の張り・食欲不振・イライラ・意欲の低下など多岐に渡り、人によって異なりますね。

PMDDは、怒りっぽくなったりうつ症状が出たりと、PMSのなかでも精神症状が強く出るものを指します。「PMSが重症化したものがPMDD」という意見も耳にしますが、誤りです。症状が軽くても、メンタルの不調で困っているならPMDDですね。

メンタル不調の程度は人それぞれですが、少し怒りっぽくなるだけの人もいれば、人間関係に支障を来すほど症状が悪化し、離婚してしまったり仕事に行けなくなってしまったりする人もいます。

──PMDDと、そのほかの精神疾患(うつ病や双極性障害など)との違いはなんですか?

PMDDは、生理周期によって症状が変化します。PMSと同様に、生理が始まる3〜10日前から不調が出始め、生理が始まる頃に症状が治まります。そのため生理周期に関係なく症状が継続しているようだったら、他の精神疾患の可能性もありますね。

──なるほど……!PMSやPMDDで苦しんでいる人が自分でできる対策はありますか?

自分でできる対策は3つあります。

①生理管理アプリの活用や、日記をつけること

月経周期の何日ごろから体調が悪くなるなど、月経に関する日記をつける事はは、認知行動療法としてPMSに有効だと言われています。まずはどういった周期で、どのように不調が出るか把握することが大切。自分のリズムやストレスの原因がわかればセルフケアができますし、予定も立てやすくなりますよね。

②リラックスできる状態をつくること

本人の気質的な問題や社会的ストレスが原因で、PMSが悪化してしまう場合があります。そのため、自分がどうやったらリラックスできるか把握しておくことが大切です。リラックス方法は人それぞれですが、ピラティスやヨガのようなゆったりとした運動や、有酸素運動も効果的だといわれています。

③不調の原因にアプローチする(対症療法)

個人でも不調にアプローチすることができます。たとえば生活習慣や食事の改善。便秘になってしまう人は食物繊維を摂取したり、むくみがひどい人は塩分を抑えカリウムが豊富な緑黄色野菜を取ったりするなど、できることから日々の生活に取り入れてみましょう。

PMSに比べPMDDの認知度・受診率が低い原因は?

──アンケートの結果、PMS・PMDDの認知度は、93%(PMS)と55%(PMDD)でした。意外と認知度が高い印象がありますが、この数字を見ていかがでしょうか?

株式会社Mentally 「PMS(月経前症候群)・PMDD(月経前不快気分障害)に関するアンケート」 2022年8月

PMSは最近メディアでよく取り上げられていますし、生理がある女性の7〜8割に何らかの症状があると言われているので、納得の数字です。

参考:公益社団法人 日本産科婦人科学科「月経前症候群」

ただPMDDはまだまだ認知度・正しい理解が追いついていないと感じますね。55%は比較的高い数字だと思いますが、mentally(メンタルヘルス系メディア)でのアンケートなので、世間一般ではもっと低いでしょう。

受診率についても同様です。PMS・PMDD単体で受診される患者さんも以前よりは増えましたが、PMDDの受診率はまだまだ低いのが現状です。

──PMDDの受診率の低さの背景には、どのようなことがあるのでしょうか?

軽症だと病院に行こうという考えには至らないのかもしれません。自分なりにリラックスしようとしたり症状を緩和するための方法を探したりして、対処している方もいらっしゃいます。

受診する方のほとんどは、症状が重くなり、自分一人ではどうにもできない状況になっている方なのだと思います。

──アンケートではPMS・PMDDともに「受診して治るものではない」「生理で受診するのは気が引ける」「我慢すればなんとかなる」などの意見もありました。

株式会社Mentally 「PMS(月経前症候群)・PMDD(月経前不快気分障害)に関するアンケート」 2022年8月

そうですね。痛みやメンタル不調を「生理現象」と捉えて、治るものではないと考えている方は一定数いると思います。また、受診したけれど「生理がつらいのはみんな同じだから」と言われ痛み止めを処方されて終わったと、医師の対応を嘆く声もSNSで散見します。。

医師にも得意不得意があったり、知識・見解にばらつきがあったりして、患者さんがつらい思いをしてしまうケースがあることは事実です。

こういった風潮が患者さんに「我慢するしかない」と思わせてしまっているのかもしれません。

──勇気を出して産婦人科に行って、先生からそう言われたら諦めてしまう気持ちもわかります……。そういった対応をされた場合、どうすればよいのでしょうか?

諦めずに、他の病院を受診してください。受診前には医療機関のホームページをチェックして、PMS・PMDDの治療をしてくれるか、ピルの取り扱いがあるかなど、下調べをしていくと受診のハードルが下がると思います。

産科や不妊治療がメインのクリニックでPMSやPMDDを診てもらうのは難しく、一般的な女性ヘルスケアを扱っているかどうかがポイントです。医師のプロフィールや所属学会を確認して、専門を確認するのもいいですね。精神科の先生が診てくれるPMDD専門外来もあるので、生理前のメンタル不調で悩んでいる方は調べてみてくださいね。

またPMS・PMDDの症状緩和のためにピルの処方を希望する方は、医師に「気になるピルがあるんですが、私に合いますか?」「このピルは合わなかったのですが、他のものを試すことはできますか?」などと自ら提案してみるのもひとつの方法です。

体質によって処方できない薬もあるので一方的に要求することはできませんが、患者さんには提案できる権利があることを知っておいてほしいです。

──病院ではいつも受け身だったので、勉強になります。アンケートでは「産婦人科に行きづらい」「気軽に行ける場所じゃない」との意見もありました。こういった意見が多い背景を教えてください。

産婦人科にハードルを感じている人は「内診(直接体内に触れて診察すること)が怖い」「そもそもどんな診察をするのかわからない」といった不安を持っているのではないでしょうか。

私のYouTubeでは、産婦人科でどんな診察をするのか具体的にわかるような情報を発信しているので、不安な方はぜひチェックしてみてください。

また、性交渉の経験がない方や性被害に遭われたことのある方、性嫌悪のある方は、診察自体に恐怖を抱いているケースも少なくありません。そういった方には内診ではなく、お腹の上からエコーで診察するなど、なるべく負担がかからないようにしています。もちろん子宮頸癌検診などは内診をしないとできませんので、必要に応じて内診のご提案をすることもありますが、診察をするには患者さんの同意が必要不可欠なので、強制する事はありません。

PMDDは精神科?産婦人科?治療の流れや受診のタイミングを解説

──病院でPMS・PMDDの治療を受ける場合はどのような流れになりますか?精神科か産婦人科、どちらに行くべきか悩む方もいらっしゃるかと思います。

生理に関係する不調がある方は、まず産婦人科を受診してください。ピルや漢方の処方、対症療法など、ご本人に合った治療法を医師が提案します。精神症状が強く出る場合は精神科を受診された方がいいケースもありますが、ハードルを感じる方も多いでしょう。その場合は、産婦人科から精神科へおつなぎすることも可能です。

「症状が出ているときに病院に行った方がいいの?」と質問を受けることもありますが、受診するタイミングはいつでも構いません。むしろ、症状が出ているときに病院に行くのは負担でしょうから、ご自身にとって一番良いタイミングでいらしてください。

──ありがとうございます。最後に、PMS・PMDDで苦しんでいる人へメッセージをお願いします。

生理による身体的・精神的不調は、症状の程度にかかわらず、我慢しなくていい。すべての女性に知ってほしいことです。

PMS・PMDDで苦しんでいる人は「この程度で受診していいのだろうか…」なんて悩まずに、相談にいらしてくださいね。産婦人科医は、皆さんをサポートするためにいるのですから。

白石 果林

白石 果林

1989年生まれ、さいたま市在住のフリーライター。生き方や働き方、メンタルヘルスに関心があり、インタビュー記事を中心に執筆。

関連記事

特集記事

TOP