「“話を聞くこと”は特別な贈り物になる」。相手の新たな一面を引き出す“聞く技術”とは?

ウェルビーイングを保つために大切にしていること

(eye-catch image)Photo by:鈴木 愛子

「親しい人に相談を持ちかけられたけど、どう対応すればいいかわからなかった」「相談をされたとき、相手の話をきちんと聞けているか不安」

大切な人を理解したいと思っていても、どのような姿勢で聞けばいいのかわからず、相談を受けることを苦手に思う方も多いのではないでしょうか。

ライター・編集者の宮本恵理子さんは、インタビューを20年以上続け、これまでに2万5000人を超える方の話を聞いてきた“インタビューのプロ”。インタビュー特化型ライター養成講座「THE INTERVIEW」の講師であり、『行列のできるインタビュアーの聞く技術 相手の心をほぐすヒント88』の著者でもあります。

「聞く行為は受け身なものではなく、相手にとって素敵な贈り物になる」と話す宮本さん。相談を受ける場面でのテクニックやマインド、相手に心地良く話し続けてもらいながら互いの関係性を深める“聞く技術”を教えてもらいました。

相談を受ける場面では、受容と傾聴を意識する

──インタビューの仕事で培った“聞く技術”は普段の生活のなかでも役立つことがあるのでしょうか?

インタビューではテーマを設定するので、日常会話とは違ったコミュニケーションが行われます。しかし、そこで用いる“聞く技術”を日常会話に応用できることは多いですね。傾聴の姿勢や、心地良く話を続けてもらうためのリアクション、質問の仕方など参考になると思います。

──実際に宮本さんが日常生活で他者から相談を持ちかけられた場合、意識していることを教えてください。

「自分の意見をすぐに言わないこと」を意識して話を聞いています。

相手は話を受け止めてもらったり、じっくり耳を傾けてもらったりする行為自体を求めているケースが多いと考えているからです。リアクションは「そうだったんだね」「大変だったね」などの声掛け程度にとどめて、受容と傾聴の姿勢を意識しています。

宮本さんの実施するインタビュー講座「THE INTERVIEW」での一枚

特に親しい人から相談を受ける場合、つい自分の意見を言って相手の話を遮ってしまうことってありますよね。そうなると、本当に聞いてほしかったことを打ち明けてもらえなくなるかもしれません。

──まずは徹底して耳を傾けることを優先するんですね。自分の意見はどのタイミングで伝えるべきでしょうか?

たとえ自分が有効なアドバイスを持っていたとしても、相手の話を遮った状態では伝わらない可能性があります。相談相手からすると「もっと話したかったのに」「ちゃんと聞いてほしい」という気持ちが上回り、アドバイスを受け取る余裕を持つことが難しくなってしまうからです。

自分が感じたことやアドバイスがあれば、相談相手が話しきった状態で伝えられると良いですね。そのとき気をつけたいのが、わかった気にならないこと。「すごくわかるよ!」よりも「そういうこともあるんだね」という声掛けのほうが、相手の気持ちをきちんと受け止めようとする姿勢が伝わるでしょう。

「私から見たあなた」を伝えることが手助けに

──相談相手がうまく言語化できず、話が途切れてしまうときはどうすれば良いでしょうか?

うまく言語化できないときは、話をすることで考えをまとめようとしているケースが多いです。そのため、考えをまとめる作業を手伝う気持ちで聞きます。話してくれたことを頼りに「それはこういうこと?」と、自分の解釈を相手に伝えるんです。合っていれば「そうそう、そんな感じ」と次の話にすすめますし、間違っていれば、「いや、もっとこう……」と相手がより的確な解釈を表現する手助けになります。

一緒に考えや気持ちを探っていく時間が作れたら良いですね。先ほど、“話しきってもらう”と言いましたが、「まだうまく話せないけど、でも聞いてほしくて」という方もいます。“話しきってもらう”は、すべてを説明してもらうことではありません。

そのとき言える可能な範囲で、好きなように言葉にすることが大切です。無理にきちんと言語化しようと話の方向づけを行うと、逆に相手を傷つけてしまう恐れも。聞く側の“相手を理解しようと努める姿勢”が一番大事なので、あくまで“お手伝いをする”くらいのスタンスでいましょう。

──時間を置き、相談相手が気持ちを言葉にしやすくなったタイミングで話を聞くこともあります。そのときはどう対応されていますか?

「実はあのとき、こういうことがあって」と、現在悩んでいることではないけれど、過去に感じた大切な気持ちを打ち明けられる場面もありますよね。そういうときは、その過去の時点で、自分には相談相手がどう見えていたかを伝えるようにしています。

たとえば、「その出来事は、今初めて知ったけれど、そんな大変なときにあんなに仕事を頑張っていたんだね」などと声をかけます。“自分に対して関心を寄せくれている”と知ることは、喜びになります。本人以外だからこそできることなので、相談を受ける際には積極的に取り入れたいポイントです。

私は、誰もが「人知れず努力をしている」と思っています。その努力を知ってくれている人がいるのは嬉しいことなので、相談を受けずとも普段から周りの方の頑張りに気づける人でありたいですね。

──日頃から気にかけていることが伝わり、相談相手の信頼を得られそうですね。ほかに得られる効果はありますか?

感情以外の表層的な事実や行動などをこちらが言葉にすることは、相手が言語化する負担を減らすことにもつながります。仕事の相談を受けた際に、「〇〇のプロジェクトをしながら、部下を◯人抱えて、そんな課題にも取り組んでいたんだね」とこちらが先回りして言葉にすると、相手は状況を説明するエネルギーを自分の気持ちと向き合うことに使えるんです。

相手の理解している部分をあえて言葉にすることは「理解してほしいけれど、伝わるだろうか」と、相談する際に相手が抱えがちな不安から少しでも解放してあげる効果もあります。

話すという“特別な空間”の効果を高める質問とリアクション

──相手に心地良く話続けてもらうための、質問のテクニックがあれば教えてください。

つい「そのときどんな気持ちだった?」と感情に迫る質問をしがちですが、感情を豊かに、かつ細かな分類をして表現できる方は少ないと思います。そのため、なかなか言葉が続かないことも。そんなとき、私は情景を聞くようにしています。「その場には誰がいたの?」「周りはどんな様子だった?」という質問であれば、客観視した情景を説明するので話しやすいですよね。これは、ジャーナリストの浜田敬子さんから伺った「聞く技術」でもあります。

──昨今、スマホやパソコンの画面越しに話を聞く機会も増えました。対面でのコミュニケーションと比較して意識している点はありますか?

オンラインコミュニケーションは、お互いの情報が画面や声だけに限られてしまいます。伝わりやすいように、話すスピードは意識していますね。普段の0.75倍速くらいです。ほかには大きく頷くなどリアクションはややオーバーにしています。

たとえば、相手の話すスピードにつられて徐々に早口になってしまったり、受け答えが早すぎて焦ってしまうことがありますよね。このように目の前の相手に影響を受けてしまうことを「メトロノーム効果」といいます。聞く側のペースに飲まれると心地よく話し続けることが難しくなるので、相手のリズムに合わせて落ち着いて話をしてもらうように意識していますね。

また、音の重なりが起こるとつい遠慮して話をやめてしまいがちです。そのため、表情や頷きで聞いていることを伝えつつ、「はい」「なるほど」など音をともなう相槌は控えています。

──最後に、聞く側のマインドとして大切なことを教えてください。

「普段、人はほとんど自分の話をできていない」という前提に立って話を聞くことです。たとえ親しい人との食事会でも、自分の話を30分間じっくりできる機会はなかなかないですよね。実は、“自分の話だけをしても許される空間”は、特別なものなのです。

「話を聞いてほしい」と強く思ってやってくる人には、まずはその願いを叶えることを優先するようにしています。話をとことん聞く時間を持つことで、「普段一緒に過ごしているのに、全然知らなかった」という相手の一面が、たくさん現れてきます。新しい発見をともにできることが、相手にとって素敵な贈り物になるでしょう

聞くという行為は、受け身なものに思えるかもしれません。しかし本来はとてもアクティブで、自分と相手の関係性をより良くする働きがあるんです。

野里 のどか

野里 のどか

フリーライター。社会福祉士の国家資格取得を目指し、専門学校で学んでいる。両親の離婚・再婚、精神的虐待、うつ、セクハラ被害、友人を亡くした経験を持つ。LGBTQ/家庭/子どもの人権に関心あり。

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