身体の疲れと同様、心の疲れにも休息が必要です。とはいえ、「休息」といっても心の疲れは身体の疲れとは違い、横になっていれば回復するとも言い切れません。心理カウンセラーのるろうにさんは、「心の疲れを回復させるには、身体の疲れをとることとは違うアプローチが必要」と言います。今回は、心が疲れたときにどのような休み方をすればいいのかアドバイスいただきました。
目に見えない心(=脳)の疲れに気づくには?
──るろうにさんは著書『心が疲れない「正しい」休み方』で、身体の疲れと心の疲れは種類が違うとおっしゃっていますね。具体的にどのような違いがあるのか教えてください。
運動したり、身体を動かす仕事をしたりして感じる疲れは主に筋肉の疲労です。家でゆっくり休むことで、回復させることができます。一方で、心の疲れは仕事や勉強に集中したり、スマホで情報をインプットしたり、人間関係でストレスを感じたりして生じる疲れです。「脳の疲れ」ともいえます。
脳=心が疲れると集中できなくなったり、いつもモヤモヤしてすっきりしなかったりします。心の疲れを放置しておくと食欲や睡眠に不具合を引き起こし、心の病気になってしまうこともあるのです。
骨折のような身体の怪我はわかりやすいため、自分も周囲も自然にケアできますよね。しかし、心の疲れは違います。周囲はもちろん、自分でも気づかずにいることが多いのです。
──なるほど。目に見えない心の疲れに気づくにはどうしたら良いのでしょうか?
具体的に心が疲れているサインとしては、以下のようなものが考えられます。
ひとつでもあてはまるものがある場合は、要注意といえるでしょう。
特に食事と睡眠は心身の健康を保つ土台なので、それがうまくいかないのは重要なサインです。「睡眠負債」という言葉があるように、睡眠不足が続くとメンタルだけでなく、体調にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
週1の軽い運動習慣で脳の疲れをとることが重要
──疲れの質が違うということは、その疲れを回復させる方法、つまり「休み方」も違ってくるということですか?
その通りです。心の疲れを自覚したときは、正しい方法で心を休めることが大切になります。ベッドに横になるだけでは、心の休息にはならないのです。
これまで心理カウンセラーとして多くのクライアントと向き合ってきた私の経験やさまざまな研究を踏まえると、日常に手軽に取り入れることができる「心の休息法」はいろいろあります。そのなかから簡単に取り入れられて、続けやすいものを試してみると良いでしょう。
──具体的に効果が期待できる「心の休息法」を教えてください。
最も効果的なのは、身体を動かすこと。脳の疲れをとるには、軽い運動で適度に身体を動かす「アクティブ・レスト」がおすすめです。
3万3908人の男女を対象に11年間、運動とメンタルの関係を追跡した調査によると、ウォーキング、ストレッチ、ヨガなどの軽い運動を週1時間するだけで、メンタル悪化のリスクが12%下がることがわかっています(※)。
ポイントは、ジョギングや筋トレのような激しい運動ではなく、ごく軽い運動を週1回すること。心が疲れているときは「身体を動かそう!」という気になかなかなれませんよね。だから、気分転換に少し身体を動かしてみる程度で十分です。
1回や2回やるだけでは効果が出にくいので、習慣にしましょう。始めるときはできるだけハードルを低くするといいですね。1日1時間ウォーキングをしようと思っても、3日坊主で終わってしまう人が多いもの。最初は週1回10分の軽い運動から始めて、徐々に時間や頻度を増やしていくのがおすすめです。小さくても行動を起こすことで、やる気があとからついてきますよ。
私も3、4年前から朝夕、それぞれ30分程度のウォーキングから始めました。今では歩かないと気持ち悪いと感じるくらい習慣になっています。
情報のインプットは脳疲労に。定期的なデジタル・デトックスを
──疲れていると、ベッドで横になったり、ソファでゴロゴロしたりすればよくなると思いがちです。仕事や勉強、人間関係に疲れたときは、身体に軽い運動で刺激を与えることが、「心を休める」ことになるんですね。ほかにもおすすめの休息法はありますか?
情報のインプットは、確実に脳を疲労させます。一説によると、現代人が1日にインプットする情報量は、江戸時代の人の1年分、平安時代の一生分に相当すると言われています。それだけ大量の情報にさらされている脳を休めるためにも、スマホやパソコンを見ないデジタル・デトックスを定期的に行うと良いですね。
私は、寝る1時間前になったらスマホを見ないようにしています。それだけで睡眠の質が上がり、起きたときも頭がすっきりするんです。寝る直前までスマホをみていたときと比べると、昼間の集中力が全然違います。
しかし、寝る前にスマホを見ないというルールを守るのは意外と大変。そんなときは意志の力に頼るのではなく、仕組みをつくるようにしましょう。21時以降はSNSなどのアプリが見られないようにする、17時以降は仕事のメールの通知がこないなどの設定をすれば、強制的にスマホやパソコンから距離を置けますよ。
──なるほど。デジタルデトックスは情報と距離を置くことで、脳の休息をとる目的があるんですね。ほかにも何か実践していることはありますか。
「やらないことリスト」をつくり、自分が不得意なこと、つまりストレスの原因を手放すようにしています。たとえばセミナーの受付業務や車の運転は、私にとって不得意だったり、好きじゃないことです。それらを「やらない」と意識的に選択することで、ストレスにさらされる機会を減らしています。リストに書いて見える化することで、「やらない」決意を確固たるものにできますよ。
自分が手放すべきことかわからないときは、「できるけれども、やると疲れること」が何かを考えてみると良いですね。自分にとって嫌なこと、ストレスを感じることをいかにやらないと決められるかが自分らしく生きることにつながると思います。
休むことへの罪悪感を払拭。心にもメンテナンスが必要
──そもそも「忙しくて休めない」「周りがが働いているのに自分だけ休むなんてできない」と考えてしまう人も少なくありません。日本人特有ともいえる、休むことへの「罪悪感」も、心を休ませることができない理由な気がします。
忙しい現代人は、「休む=悪いこと」と無意識に感じているもの。本当に休んでいいのか迷う人も多いですよね。
大前提として、「休むこと」と「サボること」は別だと認識しましょう。休むというのは、仕事や家事、育児などやるべきことをやったうえで身体や心の休養をとること。一方で、やるべきことをおろそかにして正当な理由もなく休むのがサボることです。
平日しっかり働いていて土日に休む、有給や夏休みなどに休んでリフレッシュするのは、正当な「休み」。心のメンテナンスに必要なことだと思ってください。
──心が疲れてしまう人は「休みベタ」な一面があるかもしれませんね。
そういう人ほど、周りが仕事をしているのに自分だけ休むのは悪いと感じがちです。しかし、自分の心が休みたいと言っているときに、周囲や世間の常識に自分を当てはめる必要はありません。なぜなら、同じことをしても疲れる度合いは人それぞれだからです。自分が「疲れているな」と感じるなら、休みが必要だということ。自分の心の疲れを敏感にキャッチする感覚を大事にしてほしいですね。
──仕事が忙しすぎたり、トラブル対応続きでストレスがたまっていたりするときなど、本来なら心を休めなくてはいけないときもついがんばり過ぎてしまうことがあります。大変な状況、ストレスフルな状況のときこそ、自分の心の状態をしっかり見極めることが大切なんですね。
人は追い詰められるほどアドレナリンが出て、なんとかその場を乗り切ろうとします。心が疲弊しているときにがんばり過ぎてしまった結果、ひと段落した途端にドッと疲れが出ることもありますよね。
心の健康を取り戻すには時間も労力もかかります。そうならないためにも、日々の心のストレスを解消する「マイルール」を見つけて、心の疲れを蓄積させないようにしましょう。また、自分自身の心の限界を知っておくことも大切です。日頃から自分の心の状態を把握できていれば、周囲に説明することができて、理解も得やすくなりますよ。