「同じことの繰り返し」でメンタルが蝕まれる

──NSC入学後も音楽の仕事は続けて、会社も設立してどんどん規模が大きくなっていったそうですね。

お笑いをやったことで「お笑い×音楽」の可能性に気づきました。自分にとってこの分野は未知の領域だと感じて、また頑張れるようになったのです。自分の曲がテレビで流れたときは嬉しかったですね。

でも、その状態にも慣れてしまうんですよね。打ち合わせして、デモ出して、納品して……の繰り返し。新しい刺激が徐々になくなっていき、またメンタルが落ちていきました。

その頃、同じく東京で音楽制作をしていた弟と一緒に会社を設立したんです。スタジオを持つことになり、多額の融資を受けました。今なら、融資は事業のための前向きな借金であると理解できるのですが、当時の僕はあまり経営をわかっていなくて。

「こんなに借金を抱えてしまった、今まで頑張って積み上げてきたのに、今が人生で一番マイナスの状態だ」と感じてしまったのです。

仕事自体はありがたいことに、規模も1本あたりのギャラもどんどん大きくなりました。けれども仕事で得られる喜びよりも、責任のほうがどんどん重くなってきたのです。

──つらい中、音楽制作を止めようとは思わなかったのでしょうか。

スタジオの借金もあるし、養うべきスタッフもいるから稼ぎ続けないといけない。スタッフに愛情があったし、クライアントなど仕事で関わる人たちも大好きでした。だからやめてはいけないと思っていましたね。

僕自身はもうお金はいらないと思っているのに、稼ぎ続けなくてはいけない……そんな違和感をずっと抱えていたのです。

メンタル不調が続いて、アルコールに頼ったり。毎日夜中にウイスキーを瓶のまま飲みながら仕事をしていた時期もありました。仕事もメンタル不調で連絡すらできずず、弟にフォローしてもらうこともありました。

──それでも、音楽をつくることはできるのですね。

つくれました。僕、責任感がものすごく強いんで。

本当に動けなくなったら休んで、回復したらまた仕事してと繰り返していて。この頃に一度精神科にもかかりました。ただ、病院に行ったのが休んで少し回復した後だったので、「今はもう大丈夫ですね」と言われ、安定剤をもらって終わりでした。

そうやって責任感でなんとか続けてきた音楽制作をやめるきっかけになったのは、故郷である福岡県田川市で廃校活用のプロジェクトの募集を聞いたからです。これでやっと音楽制作の仕事をやめられるかもしれないと思い応募しました。2016年ですね。

「ぶち壊す」ことで、人間とは何かを知りたい

──この4年ほどはメンタル的には安定していらっしゃるのですね。

はい。ただ、今までの経験でわかったことが一つあって。僕、同じことを繰り返すとメンタルダウンする可能性があるんです。だから、常に自分の想定外なことが起こるよう、ぶち壊し続けるしかないと思っています。音楽制作をやりながら、いきなり芸人を始めたように。

──先日、福岡県田川市の会社である株式会社BOOKの社長も交代されたと伺いましたが、それも「ぶち壊す」ことと関係しているのでしょうか。

僕より現社長のほうが社長としてふさわしいと思ったのが主な理由ではありますが、関係はしています。一つのことをずっとやり続けると、新しい情報が少なくなっていき、刺激が足りなくなるんです。

僕の人生理念は「人間とは何かを知る」だと気づきました。そのために僕は生きている。毎日心地よいけど変わりばえのしない人生と、不愉快なこともたくさん起こるけど刺激のある人生だったら、絶対に後者を選ぶ。なぜなら、より「人間とは何か」を知る機会に恵まれているからです。

思い返すとメンタルダウンしている時期は、「人間とは何かを知る」という人生理念に対して前に進めていなかったときなんです。つらい状況でも刺激がたくさんあればメンタルは保てる。だから、幸せに生きるために一番重要なことは、「自分を知る」ことなんだと思います。

自分が何を喜びとするのかをまずは知ること。「自分が」という部分が大事です。現代社会一般で言われているような「安定した裕福な生活」や「結婚して子どもがいるあたたかな家庭」が、自分の喜びと一致するとは限らない。

僕も最初は、自分の人生理念なんて意識していなかったです。「音楽制作で成功する」ことが幸せになる道だと思ってました。でも違った。

社会が規定した幸せの道が自分の人生理念と一致しなければ、いくら「一般的には幸せ」な状況になっても幸せにはなれないのだと思います。まずは「自分を知ること」。これが一番大事です。

──メンタルダウンの経験を振り返って、今思うことは何でしょうか。

メンタルダウンの話をすると「つらかったですね」と労ってくださる方も多いです。でも僕、つらい経験ができたのは得だなと思っていて。

メンタルダウン時には、家族や会社や友人など、周囲に多大な迷惑をかけてしまいました。そういった意味では、今でも本当に申し訳ないと思っています。しかし、あくまでも僕個人だけの話に限るなら、つらい経験はそれを乗り越えると、経験だけが残ってつらさは残らないと僕は思っています。つらい経験をしたことで、同じように悩んでいる人や今つらい思いをしている人の話に共感できるし、何らかの答えを提示できるかもしれない。言葉にも説得力が出ますよね。

先ほども言ったように、僕は「人間とは何か」を知りたい。そして知ると同時に、自分が悟ったことを社会に残していきたいんです。

つらいことも含め、経験者が語る方が言葉にも説得力が出ますよね。だから僕にとって、つらい経験は「百“利”あって一“害”なし」です。僕自身は、できるだけつらい経験をしておいたほうが、後々得だとすら思っています。

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豊田里美

豊田里美

ITベンチャー、住宅情報誌・Webの編集等を経て、2018年に福岡県糸島市に移住・独立。現在はフリーのエディター・ライターとして、記事編集の他、インタビュー記事中心に執筆活動中。

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