毒親との生活・ゲイ風俗・ゲイバーでの体験を、赤裸々にTwitterや書籍で発信するマンガ家・エッセイストの望月もちぎさん。2018年の発信開始から2022年7月には、Twitterのフォロワーが58万人を超えています。
『ゲイ風俗のもちぎさん セクシュアリティは人生だ。』を筆頭に、多くのエッセイや小説を出版し、多くの読者に愛されるもちぎさんは、過去にうつ病になった経験があることも発信しています。
この記事では、うつ病でつらかった時期にもちぎさんの発信に救われた経験のあるライター・ともだが、インタビューを担当。セクシュアリティや家庭環境など複雑な問題や壮絶な経験をコミカルさを交えながら伝え続けるもちぎさんに、自分や他人を愛し、温かい発信を続ける理由について語っていただきました。
うつ病だとは思いもしなかったし、弱い自分が恥ずかしかった
──もちぎさんは新卒で入社した会社を辞めたあとうつ病になったそうですね。エッセイやSNSでも詳しく発信されていますが、簡単に当時の状況を教えてください。
今思い返せば、会社を辞めて、お金や生活にすごく不安を抱えていたことで精神的に参っていたんだと思いますね。もともと、自分は本気で悩んだり傷ついたりする人間ではないと思っていましたし、悩みを人に相談しないタイプだったこともあって、初めは自分がうつ病になっていることに気づいていませんでした。
友達に「会社を辞めてからいろいろありすぎて、今は家に引きこもってるねん」と話したら、「あんた、うつじゃない?大丈夫?目がすわってるわよ……」と言われて。そこで初めて精神科を受診する選択肢が与えられて、周囲の人たちに言われるまま受診をしたら、うつ病だったことがわかりました。
──周囲の言葉で気づいたんですね……。自分がうつ病だと知ったとき、どのように感じましたか?
うつ病だと診断されたときは特に驚くわけでもなく、ショックを受けるわけでもなく、流れるままに、という感じでした。すごく偉そうですけど、「あたいはうつ病なんですね、わかりました。じゃあ、どうやったら治りますか?」みたいなスタンスだった記憶があります(笑)。
インターネットで検索すればいろいろ情報が出てくる時代でしたし、周りでもうつ病や他の精神疾患にかかったことがある子たちがたくさんいたので、それほど深刻には捉えていなかったです。
ゲイバーと、うつ病と飲酒。 pic.twitter.com/hMXA0Lw4cB
— 望月もちぎ (@omoti194) October 9, 2019
でも改めて振り返ると、当時、絶対に戻らないと思っていたゲイ風俗にちょっと戻ったり、ゲイバーで働こうと思ったりしていたので、ある意味、自暴自棄になっていたのかなとも思います。
──もしかすると、心のどこかで傷ついていた自分がいたのかもしれないですね。
「お金や生活が不安」というありきたりな理由でうつ病になったことを当時は恥ずかしく思っていましたが、今は「些細なことでは悩まないと思っていたけど、あたいもそれだけ悩める人間やったんやな」と受け入れられるようになったので、いい思い出というか、いいきっかけだったのかもしれません。
──なるほど。うつ病からの回復のために、病院を受診する以外で意識していたことはありますか?
自分で意識していたことか……。あまりパッとは思いつかないですね。
“あたい(もちぎ)=いろいろな困難を乗り越えてきた人”というイメージがあるかもしれませんが、当時は1日1日を生きるのに精一杯でした。
一つ言えるのは、自分の周りには本当に温かい人たちが多かったということです。一緒に働いていた同僚が、あたいがうつ病にかかったことを知っていろいろと気遣ってくれたり、病気のことは知らないゲイバーのお客さんや友達がいろいろなところへ連れ出してくれたり。
何かを意識して回復したというよりも、1人きりで家に籠る時間もなく忙しく過ごしていたら、あっという間に回復していたというのが正しいかもしれません。
メンタルが落ち込みそうになったら、とにかく誰かに会いに行く
──もちぎさんはエッセイやSNSで、これまでの経験やその過程での思いなどを赤裸々に発信されていますよね。そもそも、エッセイを書こうと思ったきっかけって何だったんですか?
ゲイバーの仕事を辞めて、昼間に仕事をするようになったら時間ができたので、今まで自分が経験してきたゲイ風俗やゲイバーの世界についていろいろな人に発信しようと思ったのが始まりでした。
ただSNSで発信をしていたら、ありがたいことにフォロワーさんも増えてきて。「発信しているこの人は何者なんや?」と疑問を持つ人もいるだろうなと思い、エッセイを描き始めました。
毒親に育てられた経験・ゲイ風俗やゲイバーで働いていた経験・うつ病になったことなどはすべて自分の人生の一つなので、エッセイ本やSNSで赤裸々に発信しています。
──エッセイやSNSではうつ病のことも発信されています。私は初めに見たとき「そうなんだ!?」とびっくりした記憶があるのですが、ファンの方からの反応はどうでしたか?
肯定的な意見が多かったです。
うつ病は気の持ちようでコントロールできる病気だと誤解されることもありますが、もちぎとしての普段の発信はいつも強気だったので、「こんな人でもメンタルを壊したりすることがあるんだ」「うつ病は気の持ちようでどうにかなるものじゃないんだな」という受け取り方をしてくれた人たちが多かったのだと思います。
──もちぎさんはSNSのメッセージをすべて読んでいるのですよね。50万人以上のフォロワーさんがいると、時に心ないコメントがくることもあるかと思います。攻撃的なコメントや意見に悩むことはないのでしょうか?
まったく悩まないです。
──まったく悩まないですか!?
はい。ただ、これはフォロワーさんたちの意見を真剣に受け止めていないわけではなくて。エッセイを始めてからたくさんのポジティブな意見をもらえることも増えて本当に嬉しかったですし、批判的な意見ももらえるだけありがたいことだと思っています。
──なるほど、とてもポジティブな考え方ですね!
そうかもしれません。批判ではなくただの攻撃的な意見だったとしても、あたいに対してエネルギーを使って攻撃をしている背景には何か考えや思いがあると思っていて、それを考えると攻撃的な意見であっても励みになっています。これについては、noteでも書いているのでよければ覗いてみてください。
望月もちぎ note『DM見てるよ、全部読んでるよ、あんたのことちょっとは知ってるよ。』
──現在、SNSの更新、エッセイ本や小説の執筆、社会人になってからの学生生活など、とても忙しく活動されているもちぎさんですが、メンタルの波に悩むことはほとんどないのでしょうか?
今はありがたいことに色々なお仕事をいただけているので、以前うつ病になったときのように経済的な悩みに苦しむことはなくなりました。ただ、将来のことを考えたときに昔と同じように苦しい兆しが見えることはあります。
1回うつ病を経験すると、危なそうな波みたいなのがわかったりしますよね。
──私もうつ病を経験しているので、その感覚はわかる気がします。実際にメンタルが落ち込みそうかも!と思ったときはどう対応しているのですか?
自分の場合は誰かと一緒にいるほうがアホな考えに行き着くので、何とか足を動かして人のいる場所に行きます。
人に会うのも3パターンくらいあって。
- 誰か特定の人に会いたくなったら、その人に連絡をして会う
- それが少し負担に感じるときは、約束をせず誰か知り合いに会える場所に行く。自分の場合はゲイバーですね。
- 知っている人と会うことに抵抗を感じるときは、まったく知らない人と出会える場所に行く。例えば、隣町までふらふら行ったり、新規開拓で知らないお店に入ったり。
あたいは1人きりでいるよりも、誰かの間に挟まれているほうが落ち込まないタイプなんです。
──なるほど!もちぎさんは人に会うことでメンタルを保っているんですね!
はい。あと、心がモヤモヤするときの環境って大体決まっているんですよね。例えば、昼夜逆転が続いて睡眠リズムが狂ったとか、運動する時間がなくて引きこもりっぱなしになったとか、家が掃除できなくて汚いままとか。
あたいの場合は環境に引っ張られてしまうタイプなので、モヤモヤしたらラジオ体操をする、部屋を掃除して夜に寝るみたいな当たり前のことを意識して取り入れています。
──わかる気がします!私もモヤモヤしたら必ず1人でカラオケに行きます!
そうですよね!ただ、「睡眠時間を確保したら絶対に心のモヤモヤが消える」「部屋を掃除したら絶対にスッキリする」と期待してしまうと、うまくいかなかったときの反動が大きいので要注意です。期待通りにモヤモヤが晴れなかったとき、倍落ち込んでしまうので。
──それもわかる気がします……。カラオケに行ったのにスッキリしなかったときにすごく落ち込んだ記憶が……。
そうなんです。ある意味依存というか。メンタルを回復させるための方法を持っておくことは大切ですが、それにすがりすぎると苦しくなるので、あまり期待しすぎないことも大切にしていますね。