新規の事業へ取り組むベンチャー企業では、人的・時間的コストに余裕がないことで、社員のストレスが大きくなるリスクがあります。
参考:Money Forward Bizpedia『「ベンチャーは部活っぽい」 産業医・大室正志に聞く、ベンチャー社員が抱えるストレス』
社員をマネジメントする立場にある起業家や役員には更なるストレスがかかることも。
Re:treat Farm(リトリートファーム)代表の中村義之さんは、ベンチャー企業の役員として就任していた時期に、双極性障害II型と診断されました。しかし、病気を抱えながらも「起業をする夢」を追い続け、株式会社YOUTURNを創業しました。
今回は、病気を乗り越え起業家として活躍する中村さんから、メンタル疾患を抱えてもなお夢を追い続ける大切さや、起業家として自分のメンタルを守るヒントを学びます。
自分がメンタル疾患だなんて少しも思わなかった
──過去にメンタル不調に陥った経験があると伺いました。当時の状況について教えてください。
当時、僕はベンチャー企業で取締役兼事業本部長として働いていました。事業の成長や目標を達成したいという強い気持ちを抱きながら、ハードワークをすることもしばしば……。その中でメンタル不調に陥り、結果的に双極性障害II型と診断されました。
今思い返すと原因は色々ありましたが、責任者の重責やプレッシャーによって自分自身がずっと緊張状態だったことが強く関わっていたのだろうと感じています。
僕がメンタル疾患になった過程についてはブログでも詳しく記載しています。
──役員に就任したことで、責任感がプレッシャーに変わってしまったのでしょうか?
責任感というと聞こえはいいですが、もともと自分の中に強くあった達成意欲や完璧主義などの性格傾向が、事業や組織の拡大とともに強まったのだと思います。
「高い目標を達成したい!」との強い意志があったため、当時は相当無理をしていました。でも、当時は会社全体としてもかなり忙しかったですし、僕が抱えていた約100人の部下もみんな余裕がない状況でした。
「誰にも押し付けたくない」「誰も潰したくない」との思いから、いつしか「全部自分でやればいいや」と睡眠時間を削って働いていましたね……。
──双極性障害II型と診断されたとのことですが、メンタル不調を感じてからすぐに受診をしたのでしょうか?
いいえ。変な話ですが、僕は自分自身がメンタル疾患に罹患しているなんて少しも考えていませんでした。
僕は、うつ病という言葉に代表されるメンタル疾患という病気に関して、ベッドから起き上がれなくなったり、やる気が出なかったり、希死念慮があったりするもの、という知識とも呼べないような認識しか持っていませんでした。でも、当時の僕はベッドから起き上がっていましたし、仕事にも行きたかった。希死念慮もありません。
うつ病に対する理解が浅かったためか、自分がメンタル不調の状態にあるとは思いませんでしたね。吐き気やめまい・頭痛など、周囲から見ると明らかにおかしい症状はあったものの、病院に行くべきだという正常な判断ができない状況だったのかもしれません。
──なるほど。最終的に病院へ行くことになったきっかけは何だったのでしょうか?
当時の会社の代表が「一応、病院へ行ってみたら?会社としても念のため行ってみてほしい」と声をかけてくれたのがきっかけでした。そうでも言わない限り、僕は病院へ行かないと思っていたんでしょうね(笑)。
「多分何ともないと思うけど……」と受診をしたら、双極性障害II型と診断されました。実際に診断されるまで僕は双極性障害II型という病気があることも知らなかったので、正直びっくりしましたね。
病気になる前から頼れる存在を作っておくことが大切
──中村さんは大勢の部下をマネジメントする立場にありましたが、体調不良が続いていることを誰かに相談できていたのでしょうか?
いいえ。初めて相談をしたのは、最悪の状態になってからでした。それまでも自覚していた心身の不調はありましたが、言わなかったし言えなかったですね。
部下に弱いところを見せたくない気持ちだけでなく、「弱い自分を見られると、責任ある仕事を任されなくなるのでは……」という不安もありました。
──振り返ってみて、誰かに相談しておけばよかったと感じますか?
そうですね。体調を崩してから聞いた話ですが、部下たちは「もっと頼ってほしかった」と言ってくれていたそうです。
僕は弱みをみせまいと頑張っていたつもりですが、勘のいい人たちは僕の異変に気づいていたと思います。無理をして弱みを隠すのではなく、少しでもシェアしていればよかったんじゃないかな……と思いますね。
──とはいえ、役職上SOSを出すのが難しいこともありますよね。中村さんの場合、どんな人になら相談しやすかったと思いますか?
もし今、自分が当時と同じ状況に置かれたとしても、やっぱり社内のメンバーには相談できないと思います。
僕の場合は、社外の人で、信頼ができて、同じような経験をしたことがあって、メンタルヘルスの領域に明るい人がいたらよかったと思いますね。なおかつ、メンタルが落ちている時は新しい人と新しい関係を作るエネルギーがないので、病気になる前から継続的にコミュニケーションを取っている人であればベストです。
今は、気兼ねなく相談できる人と問題がない時でも定期的に関わりをを持つようにしています。メンタルが落ち込んだ時は話を聞いてもらっていますね。