パニック障害・自閉スペクトラム症とどう付き合う?キャスターCRO石倉秀明のキャリア選択

今、自分がここにいること

「みんなが当たり前にできていることなのに、自分だけできない」。そんな思いを抱えながらの生活はきっと苦しいでしょう。

しかし、同じように「周りと違う」と感じながらも自分の特性とうまく付き合い、暮らし、仕事をするために工夫をしている人はたくさんいます。

今回は、30代後半になってからパニック障害、自閉スペクトラム症と診断された、株式会社キャスター取締役CRO・石倉秀明さんにお話を伺いました。

キャリアチェンジを重ね、自分の特性とうまく付き合いながらビジネスパーソンとして活躍している石倉さん。どのように障害を受け入れてきたのか、自分にあった働き方の選択方法などについてお聞きしました。

「ただ、ラベルが付いただけ」。30代後半で障害の診断を受けた

──パニック障害や自閉スペクトラム症の診断を受けられたのはいつ頃ですか?また、病院へ行こうと思ったきっかけを教えてください。

パニック障害は37歳、自閉スペクトラム症は39歳のときに診断を受けました。

昔から想定外の出来事が起こると冷汗があふれだして動悸が激しくなり、イライラしたり、過剰にストレスを感じたりしていました。そして、8年ほど前に症状が顕著に現れるようになってしまったんです。

ずっと胸が苦しくて、感情のコントロールができなくなり……病院へ行ったところ、パニック障害と診断されました。

自閉スペクトラム症については、その病名すら知りませんでした。2021年末ごろ、友人から「石倉さんって自閉スペクトラム症なんじゃない?病院へ行ってみたら?」と言われ、そのとき初めて「自閉スペクトラム症とはなんのことだろう?」と調べてみることにしました。

ネットで公開されている複数の診断サービスなどを使用してみたら、すべて“可能性が高いこと”を示す結果に。病院へ行き、「自閉スペクトラム症ですね」と診断されるに至りました。いま振り返ると、昔から自分が興味を持てるものにしか意識が向かなかったり、感情を読み取れなかったり、自閉スペクトラム症の特徴が自分の特性と重なっていたことがわかります。

──診断を受けて、気持ちの変化はありましたか?

特にないですね。単にラベルが付いただけで、自分の特性とはもうずっと付き合ってきているので行動にも変化はありません。

──診断結果を周りの人に話すことは、勇気が要りませんでしたか?

診断結果には自分でも妙に納得しましたし、友人に話しても「へー、そうなんだ」とか「そんな感じがする」とあっさりと受け入れられました。特に自閉スペクトラム症の特性に関しては、隠しきれていなかったんだと思います(笑)。

僕はあまり友人が多くありません。隠しきれていないからこそ、自然と、自閉スペクトラム症である私とでもうまく付き合っていける友人との関係だけが残っているのかもしれませんね。

できないことを理解し、他人に任せることが仕事のコツ

──とても良い友人関係に恵まれていらっしゃるんですね。スタートアップのCROとして、仕事で困ることはありませんか?

一緒に働いているメンバーが僕の特性を理解してくれているおかげで、うまくやっています。ストレスは感じていませんね。おそらく、周りが僕に合わせてくれているのでしょう(笑)。

僕の場合、コミュニケーションは感情の伝達交換と、情報の伝達交換の両方で成り立っていると捉えているんです。コミュニケーションの場面により、どちらの伝達交換がより重要かは異なります。経営に関しては、主に情報の伝達交換を中心として進めていくので問題ありません。

マネジメントする立場として感情の伝達交換も必要ですが、自閉スペクトラム症の僕はこれが全くできないんです。人の感情がわからないので、「空気を読む」こともできません。できないことを自覚しているため、そこは他の人に任せます。

チームの戦略立案などは僕が担い、感情のケアやモチベーション向上の施策などは他のメンバーに任せるイメージです。

──「人の感情がわからない」という石倉さん。人と関わり合うことが必須の社会のなかで、とても苦労するのではと心配になりますが……。

30代後半になったいまも変わらず他人の感情を察したり、共感したりすることはできません。しかし、段々と「感情のパターン」は理解できるようになっています。

経験がデータベースとなり、「こんなときに、人はこういう感情になるんだ」「こういう言葉を使うと、こういう感情を抱かせてしまうんだ」とパターンを学習できるんです。まるでAIみたいですよね(笑)。

年を重ねることでデータベースがどんどん蓄積されるので、振る舞い方が導き出せるようになりました。

 

「逃げてもいい」苦しいなら環境を変えることを重視しよう

──石倉さんはご自身の特性を理解したうえで、仕事で活躍されていることがわかります。人と違う部分を持つ自分を受け入れながら、強みを発揮するにはなにが重要でしょうか?

人とうまく関わり合えないことで、自分を責めてしまったり、自分を変えようと努力してうまくいかなかったり……。障害を抱える人の中には、自信を失ってしまっている人が多くいるのではないでしょうか。

人が「能力を発揮できている」と感じるには、ふたつの要素が絡んでると思います。その人自身の能力と、それを発揮している環境です。能力を伸ばすことや増やすことに注力する人もいますが、僕の場合は、自分が活きる環境を探す、作ることをなにより重要視しています。

たくさんの友人を作ることは難しくても、僕といることを楽しんでくれる少しの友人を大事にする。大きな組織ではうまく立ち回れなくても、スタートアップを自分で経営するのであれば力を出せる。そんなふうに「より自分がフィットする環境へ」という意識を持って、自分のいる場所を選んできました。

なので、いま自信を失っている人は、能力に目を向けるのではなく「いまよりマシな環境へ移動してみよう」と考えてみてください。場所に対して最適化しようと自分を変えてしまうのはきっと苦しいでしょうから。

──自分が活きる環境はどうやって探してきましたか?

「どんどん環境を変えてみる」ことに尽きますね。

僕は高校まで群馬県の山間部で暮らしていました。「日本の田舎の価値観が合わないのかな」と思い東京の早稲田大学に進学しましたが、そこも合わなくって(笑)。そこで「田舎か都会かの違いが大事なわけではないみたいだ」と気付いたんです。

その後も、仕事を変え、環境を変え……と繰り返してきました。変えるごとに自分が活きる環境の要素を確かめていったんです。最近になってやっと自分の特性に合う場所に出会えたな、と感じられるようになりました。

──石倉さんがこれまで転職や働き方を変えるなどキャリアチェンジしてきたのは、そういう背景があったからなんですね。

違和感やストレスを感じるようになったら、逃げればいいと思います。僕はそうしてきたので、これまでのキャリアの遍歴があります。

パニック障害はいつも通りであることが安心材料となるので、変化は苦手です。ただキャリアに関しては、「いまより心地よい環境へ」という変化なので、結果として良い方向へと進んでいけます。

時間はかかりますが、一度変えるごとに少しずつ居心地が良くなっていくものです。だから恐れずに環境を変えてみてください。

野里 のどか

野里 のどか

フリーライター。社会福祉士の国家資格取得を目指し、専門学校で学んでいる。両親の離婚・再婚、精神的虐待、うつ、セクハラ被害、友人を亡くした経験を持つ。LGBTQ/家庭/子どもの人権に関心あり。

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