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統合失調症という精神疾患
統合失調症は、以前は精神分裂病と呼ばれていました。精神分裂病だと差別や偏見を助長してしまうと患者家族会から要望があり、精神神経学会で検討を重ねた結果「統合失調症」に病名が改められました。
一般的な統合失調症のイメージは「幻覚や妄想のある治療の難しい病気」「なんとなく怖い」ではないでしょうか?マスメディアの報道による「わけの分からない事件は精神障害のせいに違いない」という誤ったイメージの影響もあるでしょう。
統合失調症とは、脳の働きに不調をきたす病気です。適切な治療を受けることができれば、たとえ完治しなくても充実した毎日を送ることは可能です。本記事が統合失調症を正しく理解し、適切に付き合うきっかけになれば幸いです。
統合失調症とは?
統合失調症は、100人に1人弱がかかる脳の病気です。10代後半から30代にかけて発症する人が多いといわれています。病気の影響で思考や感情、行動が阻害され、日常生活に大きな影響を及ぼすこともあるのです。
陽性症状が中心となる急性期(病気になりはじめの時期)は、薬物や入院による安静を重視します。回復期(症状が安定している時期)は、リハビリや家族への心理教育を重視し、患者の社会復帰を目指します。
発病初期の方がより薬の効果が出るため、初期状態のうちに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要となるでしょう。
参考:統合失調症について 脳とこころの研究センター 名古屋大学
統合失調症の方に見られる主な症状
統合失調症の主な症状は、陽性症状、陰性症状、認知機能障害の3つがあります。
病気の経過は前兆期・急性期・消耗期(休息期)・回復期に分かれています。前兆期から急性期にかけては陽性症状が出やすく、消耗期(休息期)には陰性症状が出やすいでしょう。回復期には、認知機能障害が現れることもあります。
症状のアップダウンを繰り返しながら、やがて安定し回復期へと進んでいきます。
陽性症状では幻覚や妄想、自分と他人の境界線があいまいになる自我障害が表れ、陰性症状では意欲の減退や感情の平板化が生じます。認知機能障害では注意力や記憶力の低下が起こりやすいでしょう。
陽性症状
代表的な陽性症状は、幻覚や妄想、自我障害です。
幻覚は、現実にはないものをあるように感じてしまう近く知覚の異常です。聞こえないはずの声が聞こえる「幻聴」や、見えないはずのものが見える「幻視」、匂わないはずのものが匂う「幻臭」なども含まれます。
妄想は、事実と異なる思い込みです。本人は事実と捉えているため、周りが訂正したくても受け入れてもらえないでしょう。黒ずくめの服を着た組織に追われている「迫害妄想」や自分の悪口を周りが言っている「被害妄想」があります。
自我障害が起こると、自分と他人の境界が不透明になり、思考や行動が自分のものか他人のものか分からなくなります。代表的な症状に自分が他人に操られていると思う「作為体験」や、自分の思考がすべて筒抜けになっていると思い込む「筒抜け体験」があります。
陰性症状
陰性症状では、表情の変化が乏しくなる、言葉の抑揚がなくなる「感情の平板化」や身だしなみへの関心の低下、勉強や仕事への関心の低下「意欲の低下」が起こるでしょう。
感情の平板化や意欲の低下によって周囲の活動への関心も下がり、引きこもり生活になってしまうことも少なくありません。話しかけても単語でしか答えられなかったり、抽象的な表現が理解できなくなったりと「思考の貧困」が起こることもあります。
認知機能障害
認知機能の低下が起こります。その結果、普段より物事を覚えるのに時間がかかったり、目の前の勉強や仕事に集中できなくなったりします。判断力が低下するため、物事に優先順位がわからなくなったり、計画を立てられなくなったりもします。
社会生活の中で失敗体験を繰り返すことにより、自信を無くしてしまい自分を責めてしまうこともあるでしょう。
複数の情報を処理するマルチタスクな仕事ができなくなるため、1対1の関係を作る、ひとつの事だけに集中させるといったシングルタスクを割り振ると良いでしょう。そのためには、周囲のサポートが必要不可欠です。
統合失調症になってしまう主な原因は?
他の精神疾患と同じく、統合失調症の原因はまだはっきりとしていません。
遺伝的要因や脳の神経伝達物質の乱れ、身体要因といった元々ある「脆弱性」に、ライフイベントや病気といったストレスが重なると発症に至るといわれています。これを「ストレス脆弱性仮説」といいます。
家族や友人、知人の中には、自分達が原因だったのではないか?と心配になるかもしれませんが、間違った認識です。統合失調症は家庭環境や育て方、本人への接し方が原因でなるわけではないのです。
1.脳の神経伝達物質の乱れ
統合失調症の陽性症状(妄想や幻覚)は、脳の中脳辺縁系で起こる神経伝達物質ドーパミンの過剰分泌が原因であるといわれています。また、中脳皮質系のドーパミンの不足により陰性症状が起こることもわかってきています。
ドーパミンは意欲や学習、快感、モチベーションの増減に影響する物質です。心身に負荷がかかった時に、ストレスに対抗するためドーパミンが分泌されますが、過剰になると神経伝達物質のバランスが乱れてしまうのです。
2.遺伝的要因
統合失調症の遺伝研究により、遺伝情報が全く同じ一卵性双生児の片方が統合失調症を発症した場合、他方が発症する割合は50%だといわれています。
遺伝的な要因のみで統合失調症発症の有無が決まるのであれば、一卵性双生児の片方が発症すればもう片方も発症するはずです。遺伝が影響することは確かなことですが、環境やストレスといった後天的な要素も影響していることがわかるでしょう。