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心的外傷が大きなトラウマ・ストレスに…
忘れることができない、つらい経験。自身の思いとは裏腹に思い出してしまったり、夢に何回も出てきたりすることもあるでしょう。
人は、特別つらかった時のことを忘れることは難しいものです。しかし、思い出しても気持ちが揺さぶられなくなっていくのが自然な反応です。
それでも時に傷ついた時のことをその場にいるかのように鮮明に思い出して、そのたびにつらくなってしまうことがあります。そういう方は、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)を知ることで、現状を変えられるかもしれません。
PTSDを起こすような心の傷は、身に危険が及ぶような壮絶な体験であることもありますが、他人から見たら「たったそれだけのことで?」と思われることかもしれません。しかし、どんなことで心に大きな傷を受けるかは、人それぞれなのです。
そして、衝撃を受けるような経験は誰でもストレスを感じ、睡眠に影響が出たり、動悸がしたりと体の不調も生じます。
ほとんどは時間が経つと治るでしょう。しかし、6ヶ月以上が過ぎても症状が変わらなかったり、以前よりつらくなったり、日常に支障をきたす場合はPTSDと呼ばれます。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは?
PTSDという病気が知られ始めた当初は、暴力や性被害、震災、大きな事故、虐待などがきっかけで、PTSDになると思われていました。しかし、最近では些細な心の傷がきっかけになってPTSDが起こることがわかっています。
PTSDは原因となった出来事によるストレスによって、不安や緊張感の高まり、眠れないなど特徴のある症状が生じます。
PTSDを引き起こすきっかけは、直接自身の経験したこととは限りません。他の人の体験を目にすることでも起きることがあります。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の主な症状
PTSDの主な症状は当時の状況が何度もよみがえる、トラウマを思い出してしまう場所や状況を避ける、常に神経が張って気が休まらない、などがあげられます。
ただ記憶を思い出すだけでなく、感情や感覚、当時の映像もリアルに感じてしまうのです。時間が過ぎても、かつての出来事が起きているような錯覚は再体験(フラッシュバック)と言います。感じ方がリアルなため、本人はとてもつらく感じるのです。
症状の出方は人によってさまざまですが、具体的には以下のような特徴があります。
1.トラウマを何度も思い出す
つらかった記憶がふいにフラッシュバックし、悪夢を繰り返し見るようになります。当時の感情まで思い出してしまうこともあるでしょう。
感情面では恐怖だけではなく、苦痛や怒り、哀しみ、無力感などさまざまな気持ちが入り混じり、まざまざと思い出してしまいます。心の変化だけでなく、動悸や発汗などの体にも症状が起きることもあります。
2.否定的な考え方から抜けられなくなる
つらい記憶を何度も思い起こすと、物事を否定的に見るようになったり、これまで示していた興味や関心がなくなったりします。
周りの人たちと隔たりがあるように感じ、自分や他人を責めたり、または罪悪感を持ったりします。否定的な感情に覆われ、幸福な気持ちや満足感が得られないこともあるでしょう。
3.トラウマに関するような状況・場所を避けるようになる
トラウマとなった当時の経験を思い出すこと、考えることをなるべく避けます。また、日常生活においてもトラウマを思い出させる人や事柄、状況を話すのを避けるでしょう。
何がきっかけになるか自覚がないことも多いです。本人も気づかないうちに、そうした状況を避けてしまうと、以前と同じような生活ができず不便さを感じてしまいます。
4.常に神経が敏感になる・張り詰めている
普段から緊張感が続きます。特定のきっかけがなくてもイライラが続き、ちょっとしたことにひどく驚いてしまいます。他人を警戒する気持ちが強くなり、張りつめた様子は、「過覚醒」と呼ばれます。
この状況では気持ちを制御することが難しく、無謀と思われる行動、感情を爆発させてしまうときもあります。交感神経が高まっている状態となり、激しい運動や飲酒、大音量の音楽などで刺激を与えると、さらに悪化することがあります。
5.感覚が麻痺する
PTSDでは自身の周りに対する愛情、やさしい気持ちを失ってしまったと思うこともあるかもしれません。時には信頼する、気を許すといったことができなくなります。
あまりのつらさから、日々の生活においても現実味を感じられず、ぼーっとしてしまったり、記憶が一部抜けたりする「解離」を起こすこともあります。トラウマとなった体験について、重要な部分が思い出せなくなるのです。
6.眠れない・集中できない状態が続く
フラッシュバックや悪夢を見続けると、覚醒状態がおさまらず睡眠に影響が出ることもあります。たとえば、スムーズに入眠できない、夜中に何度も目が覚めてしまう、睡眠が浅く満足感が得られないことが続きます。
また、日中は集中力の低下を感じるようになるでしょう。たとえば長時間の会話についていく、仕事に取り組むなどの行動において集中ができなくなるのです。
7.いつまでも上記の症状が続く
これまで述べた状態が6ヶ月以上も続き、社会や日々の生活に支障をきたす場合、病院を受診するとPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されることがあります。
なお、6ヶ月に満たない場合は、ASD(Acute Stress Disorder :急性ストレス障害)といいます。PTSDは急性ストレス障害から移行する場合もあれば、6ヶ月過ぎてからある日突然起きる場合もあります。
つらい経験の直後は、ストレスにより誰だって症状は出るものです。しかし、自分にとって抱えきれない「つらい思い」があるときは、できるだけ早めに専門家に相談しましょう。