臨床心理士が解説!複雑性PTSDとは?PTSDの特徴・原因・治療法

メンタルヘルス

この記事を監修してくれたのは…

苦しい過去から脱却したい…複雑性PTSDの治療法とは?

皆さんはトラウマと聞くとどんな出来事をイメージしますか。多くの人は、災害や事故、深刻なDVや虐待などの暴力を想像するのではないでしょうか。実は、命に関わるものでなくても、日常的に続くトラウマ体験は存在するのです。

例えば小さい頃、両親が日常的に夫婦げんかを繰り返して怒鳴り合っているのを聞いていただけでも、トラウマ体験になり得ます。このような、命に関わるほどではないけれど日常的にトラウマ体験が続くと起こる障害を「複雑性PTSD」といいます。

過去に苦しい体験があり、現在の人間関係にも影響するほどトラウマになっているようであれば、何らかの対処が必要な可能性があります。本記事では、複雑性PTSDとは何か、治療し苦しい過去から脱却するには何ができそうかをまとめているので、参考にしてみてくださいね。

複雑性PTSD(CPTSD)の意味とは

複雑性PTSD(CPTSD)とは、Complex post-traumatic stress disorderの略語であり、長期間に繰り返しトラウマを体験した後に生じる体と心の症状の総称をいいます。

アメリカの精神科医であるジュディス・ハーマンがいじめや虐待、パワハラなど長期間に繰り返し生じる心身に及ぶ影響を「複雑性PTSD」と名づけたのが始まりです。

従来のPTSDの症状に加えて、感情が不安定である、人との距離の取り方がわからないなどの症状が現れます。そのため、慢性的に対人関係に支障をきたしやすいのが特徴です。

現在、DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き)には記載されておらず、ICD-11(国際疾病分類)には記載があります。

複雑性PTSDの原因

複雑性PTSDの原因には、通常のPTSDと違って「あの出来事がきっかけ」と思える特定の出来事はありません。原因をひとつに特定できないものの、あれもこれもと複数の要因が重なり合って大きなダメージとなる場合が多いのです。

多くは幼少期のいじめや虐待の体験に始まり、小さなトラウマ体験の積み重ねが大人になってから健全な対人関係を作っていく妨げとなります。原因が特定できないため、本人は「なぜ上手くいかないのだろう」と思い、苦しみます。

1.いじめ

いじめには、学校や職場で起こるものが含まれます。あいさつをしても無視されたり、グループに入れてもらえなかったり、宿題や仕事を押しつけられたりすることは、心身の致命的なダメージにはならないものの長期的に悪影響の出る行為といえます。

最近では、個人のSNSの呟きをやり玉に上げて、徹底的に批判・中傷する「ネットいじめ」も深刻な問題となっています。批判や中傷の投稿をした本人はちょっとした愚痴を吐いただけのつもりでも、拡散されたものを見た人は傷ついてしまう場合があります。

2.パワハラ

パワハラとは、上司と部下など職場内の優位性を利用した嫌がらせを指します。物を使って小突く、大声で怒鳴り叱責する、仕事を与えないなどの行為が含まれます。

長時間労働を強いる、休憩時間を与えないなどの行為もパワハラと認定される場合があります。

3.DVや虐待

DV(ドメスティック・バイオレンス)や虐待も、個人に慢性的なダメージを与えます。人格否定的な言葉を浴びせる、生活費を与えない、過保護や過干渉によりスマホを監視するなどの行為が含まれます。

最近は、本来大人が担うはずの家事や育児、介護などを子どもに押しつける「ヤングケアラー」問題も深刻です。

複雑性PTSDを患っている人の特徴

複雑性PTSDの人は、通常のPTSDの特徴に加えて自己組織化の障害を抱えているといわれています。自己組織化の障害とは、感情の不安定さや自分への自信のなさ、人との距離のとり方の困難さなどの3つの症状が含まれます。

複雑性PTSDの3つの症状は発達障害の患者にも生じうる特徴のため、詳しくは専門医の診察を受け、意見を聞いてみるのをおすすめします。自分が複雑性PTSDかもしれないと思っても、自己判断で疾患名を決めつけないことが大切です。

参考:こころの健康クリニック芝大門「複雑性PTSDの症状とさまざまな疾患」

1.感情のコントロールができない

周囲の人のちょっとした一言にカチンときたり、傷ついたりする機会が増えます。そのため、怒りが爆発してしまったり、飲み過ぎや無謀な運転など自分を傷つけるような行動が増えたりします。

嫌な記憶を思いださないようにするため、頭がボーッとする「解離」の症状が現れることも。つらい気持ちを感じにくくするために感情がまひすると、趣味や余暇活動も楽しいと感じられなくなってしまうのです。

2.自分に自信がなくなる

トラウマ体験に対して、「こんな目にあったのは自分のせい」「恥ずかしい、汚れている」と思い、自分に自信がなくなります。周囲の人への警戒心が高まり、親切な人ほど裏があると疑心暗鬼になります。誰も信用できないと感じがちです。

周囲の人が自分を見ただけでも、あざ笑っているように勘違いしたり、にらんでいると決めつけたりしてしまうこともあります。

3.人との距離の取り方が極端

周囲の人とほどほどの距離感を維持し、良好な関係を築くことが難しくなります。

近づきすぎると相手を理想化し完璧さを求め、どこまでも受け入れてほしいと思いがちです。少しでも期待に応えられないと「裏切った」と過剰に攻撃的になることもしばしばです。一方で、誰も信用できないと感じると、極端に人付き合いを避けてしまうこともあります。

人と関係を築く上で「支配するかされるか」という価値観を持ち込みやすく、自分より上の立場の人には過剰に下手に出て服従し、弱い立場の人には支配的な態度をとります。

大人になっても幼少期のトラウマが忘れられないことも…

トラウマは日本語で「心的外傷」といわれるように、心についた大きなダメージを指します。体の傷であれば、その程度や大きさを目でみて把握できますが、トラウマは目にみえないためダメージの程度が分かりにくく、周囲の人から理解されにくい特徴があります。

周囲の人から悪気なく「いつまで過去のことにこだわっているんだ」などと否定されがちですが、忘れたくても忘れられない苦しさがあり、簡単には解決しにくいものなのです。大人になっても幼少期のトラウマが忘れられないこともあり得ます。

複雑性PTSD治療では、トラウマ体験を避けるのをやめ、思い出しても大丈夫な状態になることを目指します。そのためには、安心できる安全な場面設定とトラウマ治療を熟知している専門家の存在が欠かせません。

あーちゃん

あーちゃん

1992年生まれ。臨床心理士(公認心理師) 指定大学院を卒業し資格を取得後、街のクリニックで非常勤心理士としてカウンセリングや心理検査の業務に従事する。小学校や高校のスクールカウンセラーとしても活動中

関連記事

特集記事

TOP