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もしかしたら、パーソナリティ障害かも…?
人は誰でも考え方や行動のパターンに、何らかの特徴・偏りを持っています。その人らしさといえるような特徴を「パーソナリティ」と呼びます。社交的や内気、楽観的、神経質などさまざまなパーソナリティがあります。
パーソナリティ障害とは、大多数の人と比べて、自分の言動が極端に異なったり偏ったりすることで、本人や周囲が困る場合に診断されます。決して、性格が悪いことを意味するものではありません。
アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM – 5によると、パーソナリティ障害はA・B・C群と3つのグループに分類されています。今回は、その中でもB群の「境界性パーソナリティ障害」について紹介していきます。
境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)とは
境界性パーソナリティ障害のいちばんの特徴は「理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動く激しい対人関係」です。例えば、恋人を理想化し、思い通りにならないと一転して相手に攻撃的となったり、激しく怒ったりすることがあります。
また、見捨てられることを避けるために、時に自分を傷つけるような後先を考えない行動をとることも。
常に自分が注目されないと心が空っぽになってしまうので、関心を集め続けなけるよう意識します。自殺の計画やリストカットといった衝動的な行動をとったり、周囲の人の関心をひこうとしたりすることもあります。
気持ちや行動、対人関係が不安定になりやすく、社会生活上にさまざまな支障をきたしがちです。
DSM – 5では、特に10代後半〜20代の発症が多く、患者の76%は女性であるといわれています。
参考元:2014年 医学書院 監修 日本精神神経学会 監訳 高橋三郎 大野裕『DSM – 5 精神疾患の分類と診断の手引』p.301
境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)発症の原因とは?
境界性パーソナリティは複数の要因が絡み合い、お互いに影響しあうと発症します。
遺伝的要因や神経伝達物質の乱れ、生物学的な要因も見過ごせませんが、特に幼少期のストレスフルな環境が強く影響するといわれています。
もともと遺伝的な要因を抱えた人で、さらに幼少期のストレスが加わると、境界性パーソナリティ障害を引き起こす場合が多いでしょう。
1.幼少期のストレス
幼少期の生育環境で起こったストレスフルな出来事は、境界性パーソナリティ障害の発症に大きく影響します。
保護者と子の情緒的な結びつきが不安定だと、保護者は子どもを思い通りにコントロールするため「〜したら」と条件付きの愛情を与えます。
まだ一人では生きていけない子どもにとって、見捨てられることは命に関わります。子どもは親に見捨てられないように顔色をうかがい、必死に努力をせざるを得ないのです。
見捨てられる不安が前提にあるため、その後の対人関係も不安定になりやすいでしょう。
2.遺伝的要因
一卵性双生児の研究により、遺伝的な要因も発症に関係していることが明らかになっています。
全く同じ遺伝子を持つ一卵性双生児と、遺伝子が多少異なる二卵性双生児を比較した結果、双子の兄弟どちらとも境界性パーソナリティ障害になる確率は、一卵性双生児の方が高いことが示されています。
ただし、遺伝子の影響する割合はごくわずかです。遺伝のしやすさであれば、糖尿病や高血圧の方が影響が強いでしょう。
3.神経伝達物質の乱れ
境界性パーソナリティ障害は、脳の神経伝達物質であるセロトニンの機能低下が影響するといわれています。セロトニンの機能低下により、ドーパミンやノルアドレナリンといった他の神経伝達物質が過剰に分泌されてしまうのです。
ドーパミンは快感や喜びをもたらし、やる気を高める一方、過剰になると自分を抑制しにくくなります。ノルアドナリンは不安や怒りを感じる「不快の神経伝達物質」ですが、過剰になると攻撃的になるでしょう。
4.その他
生物学上の要因として、脳の特定部位の異常が確認されています。境界性パーソナリティ障害の患者の脳のMRIをとると、扁桃体や海馬、眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)の萎縮や活動の異常が認められています。
扁桃体は感情コントロールに重要な部位で、不安や怒りといった感情を司る領域です。海馬は記憶力に、眼窩前頭皮質は結果予測や意思決定に影響します。