この記事を監修してくれたのは…
目次
人が怖いのは病気なのか
誰でも人前に出て恥ずかしいと感じたら、緊張したり不安になったりしますよね。人の視線を意識しすぎると、人の目が怖くなり、いつもならできることができなくなります。
また、汗をかく、心臓がドキドキする、体がふるえる、顔が赤くなるなど体の症状が現れることもあるでしょう。人前に出るという不安・緊張状態により体に変化が生じるのは、自律神経のうち交感神経の働きが活発となることが関係しています。
緊張に伴う体の変化には個人差があり、人前で全く緊張しない人もいれば、緊張しすぎて吐いてしまい仕事に支障がでる人までさまざまです。人前に出るのが怖いと感じることで、社会生活に支障をきたすようであれば「社交不安症」の可能性があります。
社交不安症の可能性も
社交不安症の患者は、「人からどう見られるか」という外部からの評価をとても気にしています。評価が気になるからこそ、人の視線が気になり、変に思われたらどうしようと不安になりすぎてしまうのです。
症状がひどくなると、人と会うこと自体を苦痛に感じ、避けようとします。しかし、人との関わりを避けながら社会生活を送るのは難しいことです。
社交不安症の人は職場や学校に行けない、外出できないなどで、社会生活に支障をきたすことが多いでしょう。何とか職場や学校に行けたとしても、上手にコミュニケーションをとったり友人を作ったりするのが苦手なため苦労することが多いのです。
社交不安症とは
社交不安症(SAD:Social Anxiety Disorder)とは、人に接する場面で強い不安を感じてしまい、人前に出たり、人と接することを避けてしまう心の病気です。
社交不安症は、「不安障害群」という精神疾患のカテゴリーに分類されます。ほかにも、不安障害群にはパニック症や原局性恐怖症、全般不安症、分離不安などが含まれます。
不安症とは過剰に不安を感じてしまい、「悪いことが起きる」と怯えたり、不安を感じる行動を避けてしまったりする病気です。この行動は回避行動と呼びます。社交不安症の患者は、不安症の中でも、人前に出たり人と接したりする場面に強い不安を感じることが多いでしょう。
日本ではかつて「対人恐怖症」「社会不安症」と呼ばれてきましたが、誤解が強まる恐れがあるため、2013年に「社交不安症」へ名称が変更されました。医療機関では社交不安症という名称が一般的なため、本記事でも社交不安症と呼んでいきます。
参考:社交不安症の概念の拡張と変遷 なんば永田メンタルクリニック
社交不安症の原因
社交不安症を発症してしまう原因が何かは、まだはっきりと分かっていません。遺伝的要因や身体的要因、環境的要因がそれぞれ影響し合って発症に至ると考えられています。
身体的要因には脳の機能異常が関連しており、脳の不安や恐怖の感情に関わる扁桃体の、過剰な活発化があることが分かっています。また、抗うつ薬に効果がみられることから、脳内の幸せホルモンであるセロトニンという神経伝達物質が減少している可能性も。
強い不安を感じるメカニズム
社交不安症の人は、過去に何らかの対人場面での失敗を経験し、また同じことが起きたらどうしようと恐れるあまり、対人場面を避けるようになることが多いでしょう。
対人場面を避けることで人から笑われたり、あきれられたりする機会を回避できたと誤ったものの捉え方をしてしまうと、ますます対人場面を避けるようになります。これが強い不安を感じるメカニズムです。
1.対人場面での失敗を経験する
社交不安症を発症しやすい時期は10代半ばの思春期であるといわれています。学生時代は苦手な場面を避けることで何とかなってきたものの、社会に出て仕事上避けることが難しくなり、困ることが多いのです。
また、社交不安症の患者は発症前に対人場面での失敗を経験しています。対人場面で不安を感じるようになったはっきりとしたきっかけがある人が多いでしょう。社交不安症の患者は「人前で失敗してはいけない」と完璧主義的に思い詰めがちです。
2.人に会うときまた同じことが起きると悪い予測をしてしまう(自動思考)
社交不安症の患者は失敗を過剰に恐れ、対人場面で「また失敗したらどうしよう」とネガティブな想像をしています。
さらに「緊張している様子を他人に悟られてはいけない」「人前でうまくふるまえないのは劣った人間だ」と必要以上に自分を厳しく追い込む考え方をしてしまうのです。
自動思考とは、対人場面で自然に頭に浮かんでくる考えのことをいいます。ネガティブな自動思考が思い浮かぶと、人と接することにますます不安をおぼえるという負のループに陥ってしまうでしょう。
3.不安や緊張を隠そうと考える(安全行動)
社交不安症の患者は、「自分が不安であると気づかれないために、人前ではうまくふるまわなくてはならない」と思い込んでいます。そのため人前でうまくいかず、顔が赤くなったり、どもったり、手がふるえたりすると動揺します。
不安や緊張を気づかれてはいけないと思い込み、必死に症状を隠そうとするのです。うつむいたり、目を合わせなかったり、口や顔を隠したりします。このような行動を「安全行動」と呼びます。
4.余計緊張して不安が大きくなる(感情)
症状を隠すための安全行動が、かえって周囲の人の注目を集めてしまうことがあります。視線が集まるとますます緊張して、さらにうつむいてしまうでしょう。
うつむくことで相手の表情や動作といった反応が見えなくなります。相手のリアクションが見えないからますます不安が高まり、「見られている」「あきれられている」と思い込んで、不安や緊張が高まります。
5.人と接するのを避けようとする(回避行動)
不安感から人と会うことに苦痛を感じるようになり、人と接するのを避けるようになります。これを回避行動と呼びます。ひどくなると仕事や学校に行ったり、買い物に出かけるといった日常の何気ない行動にも苦痛を感じるようになるでしょう。
不安を感じてしまう考え方の癖を見直したり、人と接することに慣れる機会を持つことが社交不安症を治すためには必要です。社交不安症を克服する機会が失われてしまうと、ますます人と接するのを避けるようになってしまいます。