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「人前で食べられない」「食事ができない…」
食事は、私たちの生活に欠かせません。栄養を摂取するためだけではなく、家族を含めた他人とのコミュニケーションツールとしても重要です。
食事は本来、楽しく豊かな時間を提供してくれるもの。しかし、中には「人前で食事をすること(会食)に大きなストレスを感じる」と苦しんでいる人たちもいます。会食で不安や恐怖を引き起こす症状が「会食恐怖症」です。
今回は、この会食恐怖症についてご紹介します。会食恐怖症の原因から対処法まで広く解説するので、人前での食事にストレスを感じている人や、家族や友人が会食恐怖症に悩んでいる人はぜひご参考ください。
会食恐怖症とは
会食恐怖症とは、社交不安障害(SAD)の一種です。社交不安障害とは、人前で恥ずかしい思いをすることを極度に恐れ、恥をかくシチュエーションに強い不安や苦しみを感じ、避けてしまう病気です。
DSM-5(アメリカ精神医学会の精神疾患の診断と分類の手引き)では「社交不安障害」、WHO(世界保健機関)のICD-10では「社会恐怖」と呼ばれています。
会食恐怖症は、社交不安障害の数ある症状のひとつ。人前で食事をすること(会食行為)に対して、耐えられないほどの不安や恐怖を感じる疾患です。
出された料理を食べきれなかったり、吐いてしまったりして人前で恥ずかしい思いをするのを極度に恐れます。恥をかくシチュエーションに強い不安や苦しみを感じ、避けてしまう病気です。
食事を通した人とのコミュニケーションが困難になり、対人関係に苦しみます。人前での食事に不安を感じるので、1人の時には症状は現れません。
人前での食事を避ければいいと思う方もいるかもしれませんが、私たちにとって食事は重要なコミュニケーションツールのひとつです。一生誰とも食事をしない、というのは現実的に難しいでしょう。
患者の多くは会食におびえ、他人との食事を避けるあまりに交友関係に亀裂が入ることもあります。
参考:PRTIMES「精神科医も知らないマイナーな病気⁉「会食恐怖症」の克服法を人気カウンセラーが公開 発症のきっかけの62.5%は「完食指導」に【新刊案内】」
参考:厚生労働省「不安障害」
会食恐怖症の主な原因・パターン
会食恐怖症は、食事にストレスを感じるに至った原因があります。発症のきっかけとして挙げられやすいパターンを3つご紹介します。まずは病気の原因を理解してから、改善策を考えましょう。
1.プレッシャー「残さず食べなければいけない」
会食恐怖症の原因として「完食指導」が挙げられます。完食指導とは、学校給食や部活動で「食事は残さず食べなければならない」と強要される教育のことです。
小学生の頃、「給食がなかなか食べきれずにお昼休みも教室に残された」という経験がある人も少なくないでしょう。学校だけではなく、家庭でも残さず食べるように教育されるケースが多い傾向です。
おなかがいっぱいだったり、食欲がなかったりするのに、無理して食べることを押しつけられてトラウマになってしまった人は、会食恐怖症につながる可能性があります。
参考:中國新聞デジタル「人前で食事、喉通らない 知っていますか「会食恐怖症」」
2.食事しているところを見られたくない
自分が食事をする姿を見られたくない気持ちから、会食恐怖症を発症する場合があります。食べ物をほおばっている顔や、咀嚼している口元を見られたくないなど、人により見られたくないシーンはさまざまです。
また、必死に食べていると思われたくないと感じたり、食べ方が下品だと思われないか不安だったりします。食事をする行為自体が恥ずかしくなり、人前で食事ができなくなります。
3.吐くことへの恐怖心
過去に嘔吐へのトラウマを抱え、食事をして「人前で吐いてしまわないか」と不安な人もいるでしょう。吐くこと自体への不安が強いと、嘔吐の原因となる食事そのものを避けるケースもあります。
また自分が吐くだけではなく、相手が吐くことを恐れている場合も。会食ではなく嘔吐への恐怖が根底にあるので、嘔吐恐怖症という病気も併発している可能性があります。
自分自身が嘔吐をしてつらかった経験や、他の人が嘔吐をして苦しそうな姿を見ると「嘔吐はつらいもの」と感じます。嘔吐への必要以上なネガティブイメージがきっかけになり、会食恐怖症を発症します。
会食恐怖症の症状
会食恐怖症では、他人との食事中に主に以下の症状が現れます。
- 吐き気
- 動悸
- めまい
- 手の震え
- 嚥下(えんげ)障害(うまく食べられない・飲みこめない)
会食恐怖症の原因は、他人との食事のプレッシャーや不安、恐怖なので、1人の時には普通に食事ができるのが特徴です。
身体的な変化以外にも、精神的な焦りが生じます。例えば「早く食べきらないと迷惑をかけるかもしれない」「完食しないと失礼な人だと思われるかもしれない」「食べ方が汚いと思われるかもしれない」などです。ネガティブな精神状態が、体の不調をさらに強める悪循環になりがちです。
会食自体がストレスの原因になるので、誰かと一緒に食事をする可能性を避けようとします。そのため、誘いや予定を断ったり、レストランに行っても自分だけ料理を注文しなかったりなどの行為が現れます。
症状は「飲み物なら飲める」「親しい友人なら少しは食べられる」など人によってさまざまで、すべての患者が人前でまったく食事ができないわけではありません。
参考:中國新聞デジタル「人前で食事、喉通らない 知っていますか「会食恐怖症」」
会食恐怖症の治し方・治療法
会食恐怖症の治療には薬物療法とカウンセリングが行われます。薬で不安感を和らげつつ、カウンセリングで不安になる状況に対する対処法を身につけていく方法がとられることが多いでしょう。
認知行動療法は「食事を残したら、相手に不快な思いをさせ嫌われてしまうだろう」といった誤った認知を修正するのに役立ちます。行動実験を交えながら、食事を残しても意外と相手は気にしないものだと思えるようにしていきます。
また家族が会食恐怖症の場合は、患者本人に食事や完食を強要してはいけません。食べられないことを責めるのではなく、昔と比べてどれだけ食べられるようになったかに着目し、食事へのネガティブなイメージを植え付けないようにしてください。
栄養バランスはもちろん大切ですが、食べられない事情や心理を理解し、心に寄り添うコミュニケーションが必要です。
参考:PRTIMES「精神科医も知らないマイナーな病気⁉「会食恐怖症」の克服法を人気カウンセラーが公開 発症のきっかけの62.5%は「完食指導」に【新刊案内】」