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大人の発達障害とは?
発達障害とは、生まれつき脳の働き方が異なることから、幼少期から周囲の人と違った特徴が見られ、社会生活上支障をきたしている状態をいいます。発達障害の中でも「大人の」とつくものは大学生以上の年齢の人の発達障害を指します。
大人の発達障害と診断される人の多くは、幼少期から発達障害の特徴を持っていたものの、症状が軽かったり目立たなかったりして周囲の人に気づかれなかった人たちです。進学や就職による環境の変化で特性が明らかになることが多いでしょう。
周囲の人とのコミュニケーションがうまくいかない、場の空気が読めない、忘れ物やケアレスミスが多い、仕事の段取りが苦手、締め切りが守れない、衝動的に行動してしまうなどの特徴がみられます。
発達障害になる主な原因
発達障害の原因はこれまで多くの研究がされてきましたが、まだはっきりとしていないのが現状です。何らかの要因により、脳の発達がアンバランスになることが、発達障害の特性のかたよりを生み出していると考えられています。
また、双生児研究により発達障害には遺伝的な要因も影響する可能性があることがわかっています。複数の要因が絡み合い発達障害になるのです。
発達障害の種類
発達障害は大きく分けて3種類あります。
- アスペルガー症候群や自閉症を含むASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠陥多動性障害)
- LD(学習障害)
DSM-4(アメリカ精神医学会の精神疾患の分類と診断の手引き)では、自閉スペクトラム症は「広汎性発達障害」と呼ばれました。DSM-5から「自閉スペクトラム症」に名称変更されています。
スペクトラム(spectrum)は「連続体」と訳されます。自閉スペクトラム症にみられるような特徴は、程度の差こそあれ皆持っていることです。0なのか1なのか、白か黒かではなく、症状の程度の差、濃淡だということを意味しています。
発達障害であるかそうでないか厳密に区別せず、傾向の強さで判断していくのがポイントです。
参考:こどもと大人の訪問発達サポートApila 自閉症スペクトラム障害(ASD)とは
自閉スペクトラム症(ASD)の特性
自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)には、知的障害を伴う「自閉症」と、知的障害を伴わない「アスペルガー症候群」の2種類が含まれます。ASDの主な特徴は2つあります。1つめは社会的相互作用の障害、2つ目は同一性へのこだわりです。
表情や言葉のニュアンスから相手の心情を推測することや、場の空気を読み適切な行動をとるのは苦手な人も多くいます。また、特定のものに強い関心を示したり、生活パターンやルールへのこだわりが強く、場面に応じた臨機応変な対応をするのが難しいです。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)の特性
注意欠陥・多動性障害(ADHD:attention-deficit hyperactivity disorder)とは、不注意や多動性、衝動性といった特徴がみられる障害です。多動性により、デスクワークといった長時間じっと座っている作業は苦手です。
不注意により忘れ物やケアレスミスが多く、複数の仕事を抱えるとタスクが抜け落ちてしまうなんてことも。ほかにも、衝動性により会議でつい人の話に口を挟んでしまったり、よく考えずに行動に移してしまったりすることがあります。衝動買いも症状のひとつです。
学習障害(LD)の特性
学習障害(LD:Learning Disability)とは、読み書きや聞く、話す、計算するなど、ある特定の学習能力に著しい困難を示す障害です。知的にはおおむね正常範囲であるのが特徴です。
読むことが苦手なことを読字障害(ディスレクシア)、書くことが苦手なことを書字障害(ディスグラフィア)、算数や計算が苦手なことを(シスカリキュア)といいます。
大人の場合は、電話で話を聴きながらメモが取れない、話をうまくまとめられない、お金の計算ができないといった形で症状が現れることが多いでしょう。
発達障害の人の特徴
大人の発達障害の人には、共通するいくつかの特徴があります。下記に紹介しているものはその特徴の一部です。人それぞれ当てはまるところもあれば、当てはまらないところもあるでしょう。また、特徴1つとってみても、特徴が強く現れる人もいれば、少しそうだといえる程度の人もいます。
複数の特徴が当てはまっており、社会生活に支障をきたしているようであれば、大人の発達障害である可能性は高いでしょう。自己判断で完結せず、気になる場合は専門医を受診するようにしてください。
1.感覚過敏がある
周囲の人よりも聴覚や視覚、触覚が過敏で、仕事に必要な情報以外も意識に入ってきて集中できなくなることがあります。
例えばエアコンや車の音、周囲の人の電話の声なども気になってしまうでしょう。パソコンのディスプレイが眩しすぎたり、色が鮮やかすぎたりして集中できなくなることもあります。作業中に後ろから急に呼ばれ肩を叩かれると、強く叩かれたように「痛い」と感じてしまいます。
2.こだわりが強い
大人の発達障害の傾向のある人は、融通が効かず、柔軟にものを考えるのが苦手です。会社の規則やルールはきちんと守りますが、周囲の人にも同様の厳格さを要求してしまいがちです。
特定の仕事に対して、手順通りに進めることに強くこだわります。自分の知らないやり方だと、どのような結果になるのか予測がつかないので不安になりやすいのです。指示されていない細かいところが気になって作業が先に進められないことも。
3.興味関心の幅が狭い
大人の発達障害のある人は、周囲の人とコミュニケーションをとることへの関心が薄いことが多いでしょう。一方で、鉄道や天気、生物、地理、コンピュータなど特定の分野には強い関心を持ち、学者並みに知識が豊富な人もいます。
興味のある分野に対してはものすごい集中力を発揮し、時間を忘れて没頭します。マルチタスクよりはシングルタスクの方が得意なタイプが多いでしょう。一方で、興味がないことへはなかなか取りかかれないといった集中力のムラが目立つことも。
4.コミュニケーションが苦手
相手の言葉通りに物事をとらえる傾向があり、表情や仕草、声のトーンといった情報から気持ちを推測するのが苦手です。相手の目を見て話をするのも苦手なので、「睨みつけている」と勘違いされてしまうことがあります。
言葉のさじ加減がわからないという特徴もあります。「適当に」や「大体で」といった曖昧な指示があると、どの程度が「適当」なのか分からずフリーズしてしまい、過剰に丁寧にこなすか、雑にこなすかしてしまうでしょう。
5.予定の管理が苦手
予定の管理が苦手で、その日やるべきことはすぐに忘れてしまいます。手帳にきちんと書き込んでいても忘れてしまいます。発達障害の「過集中」という特性により、一旦火のついた仕事は終わるまでとことん集中できますが、それ以外の用事はすっかり忘れてしまうのです。
また、ASDやADHDの共通特性として「ものが捨てられない」という点があります。予定をメモしていても、書き込んだ紙自体を無くしてしまいます。紙の書類の整理が苦手で、デスクの上は常に必要なものとそうでないものが一緒くたに山積みになっています。
6.ケアレスミスが多い
一口にケアレスミスといっても、その原因はさまざまです。何が原因でミスが生じたか考えることが大切です。発達障害が原因のケアレスミスは、ADHDの「不注意」や「衝動性」による影響が強いものが多いでしょう。
不注意傾向があると、自分で見直しているつもりでも見落としが多くなります。衝動性が強く、1つの作業に没頭するあまり他の用事を忘れてしまうこともあるでしょう。集中力が続かず、作業に飽きてしまうと締め切りが守れなくなることも。仕事の提出期限に焦れば、その分ミスが増えやすくなります。
参考:六本木ペリカンこころクリニック 「大人のADHDです、ケアレスミスを減らす工夫とは…?」
発達障害の治療方法
発達障害は持って生まれた特性であり病気ではないため、治療するより特性とうまく付き合うのを目指すほうが良いでしょう。薬では特性をコントロールすることはできても、完全に治すことはできません。
治療方法は症状や困っていることについて都度、相談していく支持的精神療法が中心となります。
大人が高いところにある物を取りたいとき、今から身長を伸ばして取るよりは、脚立を持ってきて取ろうと考えるでしょう。これと同じで、特性により生じる不得意をさまざまな工夫によりカバーしていきます。
発達障害の人は、周囲の人から言動を誤解されることが多いでしょう。そのため、いじめや引きこもり、自傷行為などの二次障害が起きている場合も少なくありません。社会生活に支障をきたすような本人の生きづらさ、二次障害を軽減することも治療の大切な目標となります。
大人の発達障害の人と共に働くために〜適切な接し方〜
2016年に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の中で、障害のある人に対する合理的配慮の内容が定められました。合理的配慮は、障害のある人から社会生活に支障をきたすバリアを取り除くために用いられます。
会社は負担の重すぎない範囲で、本人から配慮が必要だと意思表示があったときに対応することが求められるでしょう。これを「合理的配慮の提供」といいます。
例えば、発達障害の特性により聴覚過敏のある人に対して、就業中ノイズキャンセリングイヤホンの着用を許可するのは、合理的配慮にあたります。
1.決めつけないこと
同じ発達障害でも、障害の特性の現れかたは人によって異なります。ケアレスミスが起きるのはADHDの特性からと思われがちですが、よくよく本人の話を聞くとASDの特性によるミスだったということはよくあります。はじめからミスの原因を決めつけすぎないことが大切です。
まずは本人とよくコミュニケーションをとり、特性に応じた指示を出すようにしましょう。絵や写真など視覚情報の処理が得意な人もいれば、口頭での聞き取りで情報処理するのが得意な人もいます。
2.感覚過敏への配慮
発達障害の人は、頭に入ってくる情報の取捨選択が苦手といわれています。情報の取捨選択の弱さは、人によって出方に違いがあります。音の情報の取捨選択に弱ければ聴覚過敏となり、視覚の情報に弱ければ視覚過敏になるのです。
聴覚過敏の代表的な症状にオフィスのエアコンや電子音への過敏さがあげられます。デジタル耳栓やノイズキャンセルイヤホンで雑音カットができるよう配慮が必要になります。また、視覚過敏ではパソコンのモニターが眩しく感じることがあるため、設定上で明るさを調節できると良いでしょう。
3.わかりにくい表現を避ける
発達障害の人にとって分かりにくい表現は、代名詞や省略語です。「そこのあれとって」と頼んでも、あれが何を指すのかわからずあたふたしてしまうでしょう。「机の上の青いファイルをとって」と具体的に尋ねるようにしてください。
「パンフ」「ことよろ」といった省略語も、瞬時に直感で意味を理解するのは苦手です。単語はできるだけ略さず、正式名称で伝えるようにするのが接し方のポイントです。
4.具体的な指示を出す
発達障害のある人への指導にはわかりやすく、具体的な指示が欠かせません。集合日時を伝えたい場合は「いつ来ても良いよ」ではなく「金曜日の10時までに1階ロビーに来て」と具体的に伝えるようにしましょう。
「いつ来ても良いよ」だと、いつ行くのが正解なのかわからず混乱してしまうのです。集合日時があるなら詳細まで具体的に伝えるように。日時はもちろん、どこに集合するのかまで伝えるのがポイントです。
5.見通しを持たせる
予定の管理が苦手な人が多いため、時間の見通しを持たせる工夫ができると良いです。手帳やスマホ、パソコンのカレンダーを利用して約束そのものの日時を記録している人は多いでしょう。約束の日時だけでなく、準備や移動にかかる時間も考慮し、あらかじめ分単位でタイムスケジュールを作成しておくのです。
移動時間だけでなく、電車の待ち時間や本人が準備にかかりそうな時間も組み込みましょう。イメージや思い込みではなく、客観的に自分の時間を把握できるようにしていくのがコツです。
大人の発達障害に役立つライフハック
大人の発達障害の人が働くためには、特性をカバーするライフハック知識の蓄えが欠かせません。
大人の発達障害をテーマとした書籍が多数発行されているのでチェックしてみると良いでしょう。最近だとADHDタイプの大人のための「ルーチンタイマー」というアプリもとても便利です。
『SHOEISYA ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本』
発達障害の大人の中でも、主に事務仕事やマルチタスクを必要とするデスクワーク中心の人向けに書かれた本です。予定の管理方法や電話対応のコツ、整理整頓のポイントなどが分かりやすく説明されています。
「ルーチンタイマー」は約束の予定や時間の見積もりが苦手な人におすすめのアプリです。分単位でスケジュールの設定ができ、アラームで時間の経過を都度知らせてくれます。
参考:おおくま経済新聞 ADHDのためのアプリ「ルーチンタイマー」 作ったのは「自分が困ってたから」
生活に支障が出たら、専門医を受診しよう
発達障害の人はよく自動車に例えられます。普通の人が軽自動車だとすると、発達障害の人は「高級外車」だと捉えてみると、特性が理解しやすいでしょう。軽自動車は程々のスピードでコントロールしやすく、普段の買い物に役立ちます。
高級外車はとてつもないパワーエンジンが搭載されているので、いったん走り出せばどこまででも走り抜けていくでしょう。その分燃費が悪かったり、「乗りこなす」のが難しかったりするのです。
上手に乗りこなすには、適切な乗りこなし方を指導してくれる「教官」の存在が必要です。発達障害の専門医は発達障害の体を乗りこなす方法を熟知しています。生活に支障が出たら、早めに相談することで、一人で思い悩む時間を少しでも減らす助けになるでしょう。
※この記事は、悩んでいる方に寄り添いたいという想いや、筆者の体験に基づいた内容で、法的な正確さを保証するものではありません。サイトの情報に基づいて行動する場合は、カウンセラー・医師等とご相談の上、ご自身の判断・責任で行うようにしましょう。