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愛情が満たされない寂しさを抱えて…
いつも人に気を使って疲れてしまう。表面上を取りつくろうことはできるが、なぜか恋人やパートナーに自分をさらけ出すことができない。人と関わることを心から楽しめない感じがする。こんなことはないですか。
なぜ、本心をおさえてでも人に合わせてしまうのでしょうか。なぜ、相手に拒否されたり傷つくことを恐れてしまうのでしょうか。もしかしたらその悩みの原因は「愛着障害」かもしれません。
この記事を読まれている人は「原因はわからないけれど何だか生きづらい」、「どうすれば悩みを解消できるのだろう」と思っている人が多いはず。本記事は、愛着の問題について原因や治療法などをまとめています。
愛着障害に悩む子どもの保護者や当事者の方が、悩みを解決するきっかけになれば幸いです。
愛着障害とは?
イギリスの精神科医であるボウルビィは「愛着」を子どもが特定の他者に対して持つ情愛的な結びつきであると定義しました。愛着障害とは、何らかの理由で養育者との間で愛着が形成されず、子どもの情緒や対人関係に問題が生じる状態をいいます。
子どもの愛着障害は医学上、反応性アタッチメント障害(反応性愛着障害)に分類されます。DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き)によると、幼少期に安定した愛着をきずけなかった場合に、5歳までに発症するといわれています。
大人の愛着障害は研究が少なく、医学的にはまだ明確に病気として扱われていないのが現状です。一方で精神科の日々の診察では、対人関係に支障をきたす患者の背後に「愛着」の問題が隠れていることが非常に多いのです。
【愛着障害】大人の特徴・症状
愛着障害研究の第一人者である精神科医の岡田尊司氏は、一般の人にもわかりやすく大人の愛着障害を4つに分類しました。岡田氏は、人には個々の愛着スタイルがあるといいます。著書の中で、愛着スタイルは「愛着回避」と「愛着不安」によって決まると説明しました。
愛着回避とは、親密な対人関係を避ける傾向をいいます。愛着不安は、親密な関係があっても不安になり、より完全な親密さや依存を求める傾向です。
この2つの指標のいずれも低ければ「安定型」、回避が低く不安が高ければ「不安型」、回避が高く不安が低ければ「回避型」、両方とも高い場合は「恐れ・回避型」に分類されます。
参考:2011年 光文社新書 岡田尊司 『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』
1.安定型(secure)
4つの愛着スタイルの中で、最も精神的に安定しているのが「安定型」です。安定型の人は、人から愛され大切にされることを当然のように確信しています。見捨てられるのではないか、嫌われるのではないかと思い悩むことはありません。
仕事やプライベートをバランスよく上手にこなします。自分の意見や気持ちを適切な方法で表明でき、相手へ配慮しながら意見を交換できます。周囲の人に気軽に相談したり、助けを求めたりするのも得意です。
2.不安型(anxious)
不安型の人は周囲の人から愛され大切にされていても不安になり、さらに愛情を求めます。一見、人当たりがよく良い人に見えるのですが、少しでも相手の反応が悪いと、嫌われたのではないかと不安になるのが特徴です。
恋愛関係になった時に問題が表面化しやすく、べったりとした依存関係を好みます。例えば、パートナーが自分を愛しているか不安になると、つい相手を試す行動をとってしまうことも。このように嫉妬心が強く、裏切られたと感じると激しく怒りをぶつけることもあるのです。
3.回避型(avoidant)
回避型の人は、距離をおいた人との付き合いを好みます。会社や学校のグループに所属するのは苦手で、人とぶつかり合う状況を避けたがるからです。人に頼ったり頼られたりすることはせず、他人に迷惑をかけず自立することを望みます。
恋愛に関しても淡白で、来るもの拒まず去るもの追わずなタイプで、感情表現に乏しくパートナーの心の痛みに共感するのは苦手です。ですが感情に判断を乱されないため、物事を冷静に客観的に見極めるのは得意と言えるでしょう。
4.恐れ・回避型(fearful-avoidant)
恐れ・回避型の人は、1人でいることは不安で人と仲良くしたい反面、親密になり人とぶつかり合うことを恐れています。人を信じてつながりたい気持ちはあるものの、信用できない疑いの気持ちもありジレンマを抱えているのです。
恋愛ではパートナーの愛情を疑う気持ちが強くなり、試すような行動を多くとってしまいがち。恐れ・回避型タイプの人は、過去に養育者との関係に深く傷ついた体験を持っている人が多いのが特徴です。
愛着障害の大人と関わる全ての方へ
大人の愛着障害の克服には、良い「安全基地」となってくれる第三者の存在が欠かせません。
安全基地は、エインズワースというアメリカの女性心理学者が提唱した概念です。子どもは養育者との信頼関係により育まれる安全基地=心の拠り所があることで、自由に外の世界を探索できるようになり自立するといわれています。
安全基地となる存在は家族や友人、恋人どなたでも構いません。大切なことは、愛着障害の大人と長期的に安定した関係をきずける存在が身近にいることです。
良い安全基地の条件は2つあります。1つめは安全で安定した存在になることです。一緒にいても傷つけられる心配がなく、対応が一貫している必要があります。2つ目は共感性で、相手の気持ちに寄り添い共感できる存在が求められます。
もし、愛着障害を抱える人が身近にいるようであれば、上記の対応を心がけるだけでも、本人はだいぶ救われるはずです。自分を否定せず受け止めてくれる存在があってはじめて、愛着障害の心の傷は癒されるのです。
【愛着障害】子どもの特徴・症状
子どもの愛着障害は、反応性愛着障害(反応性アタッチメント障害)と「脱抑制型愛着障害」に分けられます。反応性愛着障害は、周囲の人に対して過度に警戒するのが特徴です。脱抑制型愛着障害は、周囲の人に対して過度になれなれしくなる症状が現れます。
愛着障害の特徴は自閉症スペクトラム症の症状に似ているものが多いです。発達障害は先天的なもので、愛着障害は後天的なものである点が異なります。下記に「反応性愛着障害」の特徴をあげます。
1.警戒心が強い
愛着障害の子どもは警戒心が強いことが多いです。周囲の人が近づくと、距離をとり逃げるそぶりをみせたり、攻撃的に反応したりします。他の子どもが大人に叱られていると、まるで自分が怒られたかのように感じ、びくびくおびえる子もいます。
新しい物事に挑戦するのが苦手で、一つひとつ大人に確認を取りながらでないと取り組むことができません。常にアンテナをはりめぐらせ周囲の人を警戒しているので、同じ活動をしても他の子どもより疲れやすいです。
2.試し行動が多い
けがをしたわけでも、どこか痛めたわけでもないのに手足が痛いと大人に訴えにくる子どもは、試し行動をしているといえます。他にも、大人に対してわざと悪ふざけをして怒られるようなことをする子もいます。
自分が助けを求めたときや、悪いことをしたときに大人がどこまで自分を許してくれて、受け止めてくれるのかを試しているからです。その背後には、周囲の大人に対して自分への愛情を確認したい気持ちが隠れていることが多くあります。
3.自己評価が低い
愛着障害の子どもの中には自己評価が低く、「どうせ何をやってもできっこない」と物事に挑戦する前に諦めてしまう子がいます。勉強していてわからない問題が出てくると「できないからやりたくない」と諦めてしまうのです。
話しかけられれば対応できるものの、自分から同年代の子に話しかけることができず、積極的に関係を作れない子もいます。根本には「どうせ自分なんか」という自己否定の気持ちを抱えています。
4.喜怒哀楽に乏しい
人は言葉や表情、身振り手振りで自分の気持ちを相手に伝えようと意思疎通を試みます。養育者との間で愛着が形成されていないとコミュニケーションがうまくとれず、情緒が発達しないまま大人になってしまいます。
愛着障害の子どもは表情に乏しかったり、喜怒哀楽の表現が薄くなったりしがちです。見た目には何を考えているのかわからないので、周囲の人とのコミュニケーションがますます難しくなるという悪循環が生じやすいのです。
愛着障害の子どもがいる親御様へ
反応性愛着障害の子どもと接していると、こちらを無視して一人遊びをする場面が多いかもしれません。こういった状況であればやりすぎない程度に話しかける、横から遊びを手伝うなどの関わりが有効です。
脱抑制型愛着障害の子どもは、必要以上にひっついてきたり、かと思えば感情的に怒ってきたりすることが多いです。試し行動によりこちらもイライラしてしまうことが多いかもしれませんが、グッとこらえて子どもをなだめながら言葉で諭すのがポイントです。
反応性愛着障害の子ども、脱抑制型愛着障害の子ども、いずれにも大切な関わりは、子どもにとっての「安全基地」となれるように意識することでしょう。無視しても怒っても、ちょっとしたことでは養育者は離れていかないのだと子どもが理解できると、安心感につながります。
はじめはそうできないことが多いかもしれません。感情的になっても大丈夫です。ゆっくりひとつずつ、できることから行い、焦らず段階を踏んで肯定的な声がけ、関わりを心がけましょう。抱っこや微笑み、ありがとうなどの声がけができると良いですね。
愛着障害の主な治療法
反応性愛着障害の子どもを持つ養育者は、子どもとの関わりが少なく無関心なことが多いです。脱抑制型愛着障害の子どもを持つ養育者は、子どもに対して感情的で過干渉という特徴があります。
養育者が子どもに対して無関心になったり、過干渉になったりと「ほどほど」の関わりができないことを責めても問題は解決しません。なぜなら、養育者自身が親に関心を向けてもらえなかったり、反対に過干渉だった経験を持つことが多いからです。
愛着障害の治療は、医師やカウンセラーといった治療者が養育者と話し合いながら進めます。養育者が子どもに肯定的な関わりをするのが難しいのを理解した上で、どのような関わり方ならできそうか一緒に考えていきましょう。
治療者は養育者が子どもに対してできるようになったことを認め、子どもに対するポジティブな関わりが増えるように温かいサポートを心がけています。
愛着障害を抱える方にしてはいけないと
児童虐待に関する悲惨なニュースをテレビで見ると「なんでこんなひどいことができるのだろう」と思うかもしれません。どこか別の世界の出来事と思いがちですが、身体的な暴力以外にも目に見えない精神的な暴力は意外と身近にもあるものです。
養育者の子どもに対する何気ない発言が、実は子どもを傷つけている場合があります。よくあるのが「条件つきの肯定」です。子どもが言うことを聞いたときのみ褒める、ニコニコ接するなどの条件つきの肯定は、あまり望ましくない行為です。
良い子でなければ愛されないと子どもに誤った認知を身につけさせてしまいます。小さなことでもありがとうと感謝の気持ちを伝えることが大切です。
また、見逃しがちなのが「夫婦ゲンカ」です。直接子どもが関わっていなくても、両親がケンカする場面を子どもに見せてしまっていないでしょうか。子どもは夫婦関係を意外とよく見ています。子どもが不安にならない心くばりを忘れずに。
専門医のカウンセリングを受けよう
大人の愛着障害の治療は、専門医や心理士によるカウンセリングが中心となります。HPで愛着障害の記載がある精神科クリニックや心理相談室に行ってみるのが良いでしょう。中には、愛着障害の改善プログラムを独自に行なっているクリニックもあります。
子どもの愛着障害の場合は、県や市で行われている子育て相談窓口で相談先を探してみるのをお勧めします。児童専門の精神科クリニックも愛着の問題を扱っています。
※この記事は、悩んでいる方に寄り添いたいという想いや、筆者の体験に基づいた内容で、法的な正確さを保証するものではありません。サイトの情報に基づいて行動する場合は、カウンセラー・医師等とご相談の上、ご自身の判断・責任で行うようにしましょう。