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体が動かない…強いストレスに襲われている…
仕事や家庭のストレスがあり、これまで普通に過ごせていたのに、急に手足が動かなくなったり、歩けなくなったりした。心配で病院を受診したものの、体には何の異常も見あたらないといわれモヤモヤしている。こんな経験はないですか。
もしかしたらその身体症状は、転換性障害かもしれません。転換性障害は、強い精神的ストレスが身体的症状に転換されることで起こる精神疾患です。多くの転換性障害は自然に治っていきますが、中には長引くものもあるので注意が必要です。
原因不明の身体症状で悩んでいる方は、ぜひ本記事を参照して転換性障害とはどんな疾患なのかを見ていきましょう。症状の特徴や原因、治療方法、何科を受診すべきかまでまとめているので、参考にしてくださいね。
転換性障害とは
転換性障害(Conversion Disorder)とは体に問題はないものの、随意運動機能や感覚機能に症状が現れる疾患です。転換性障害の原因は精神的ストレスや葛藤であるといわれています。精神的要因が身体症状に転換されるという意味で「転換」という言葉が使われました。
てんかん性障害と名前が似ていますが、全く別の疾患です。
人間の筋肉には、自分の意思で動かせる随意筋と、自分の意思で動かせない不随意筋の2種類があります。転換性障害で異常をきたすのは主に「随意筋」です。随意筋である骨格筋は骨に付着し、体を動かしたり姿勢を維持したりする随意運動機能を担います。
随意運動機能に異常をきたすと立てなくなる、姿勢が保てなくなる、歩けなくなる、声を出せなくなるなどの症状が現れます。感覚機能の異常には、目が見えなくなる、耳が聞こえなくなる、匂いや味がわからなくなる、触れても熱さがわからなくなるなどの症状が含まれます。
転換性障害の主な症状
転換性障害は、かつて精神科医のフロイトが「ヒステリー」と呼んでいたものです。ヒステリーとは、感情や記憶を無意識化に抑圧することで体の機能に支障をきたす神経症の一種です。それが現代では「転換性障害」と呼ばれるようになりました。
転換(conversion)には「精神的ストレスや葛藤が身体的症状に置き換わる過程」という意味があります。転換性障害では、無意識の精神的ストレスによりさまざまな症状が生じます。代表的なものは運動障害で、次いで感覚障害、発作症状が現れやすいです。
1.運動障害
転換性障害の代表的な症状は運動障害です。随意運動に異常をきたし、手足が動かなくなる麻痺、体の一部に力が入らなくなる部分脱力、声が出なくなる失声、飲み込みができなくなる嚥下(えんげ)困難、尿が出なくなる排尿困難といった症状が現れます。
手足が動かなくなったり、体の一部に力が入らなくなったりするため、体幹の不自然な動きも生じます。例えば、よろめきながら歩いたり、ムチを打つように腕を振りまわしたりする動きがみられます。
2.感覚障害
感覚障害では視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感に異常をきたします。目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったり、ものが二重に見える複視が起きたりします。匂いや味がわからなくなる、ものに触れているのに感覚がわからなくなることも。
ほかにも、ろれつがまわらなくなる構音障害や、喉が詰まるような感覚になる症状も現れます。「無反応」という失神や昏睡に似た症状が現れることもあります。
3.発作症状
失神やてんかん発作のように、意識を失ったり手足が震えたりする発作が起きることがあります。これらは心因性発作、または非てんかん性発作と呼ばれます。状況により発作が生じること、音や光の刺激によって起こることが特徴です。
子どもの場合は、精神が未発達なため精神的ストレスを自覚できず、身体的な発作や症状として現れやすいと考えられています。子どもの場合は症状が現れてもすぐ消失することが多く、安心や安全を感じると徐々に改善していきます。
転換性障害の主な原因・性格傾向とは
転換性障害を発症しやすい年齢は、10歳の児童期から35歳の成人期までといわれています。男女比は1:2から多くて1:10の割合で女性の方が発症しやすいです。発症しても症状が長く続かず、だいたい数週間で回復します。また、再発は多い傾向があります。
1.精神的要因
転換性障害は精神的ストレスや葛藤、死別や離婚を含む喪失体験、虐待や事故といったトラウマを引き金に、精神的な負担が身体症状に置き換わる疾患です。転換性障害の発症や維持には、「疾病利得」が影響している可能性が高いです。
疾病利得とは、病気にかかることで本人が得られる利益をいいます。仕事などの病気のもととなるストレスから一時的に解放されたり、家族や医療従事者からケアされたりすることで安心を得られる利益を指します。