愛着障害とトラウマの考え方とは?自分と相手の心をケアするために必要な3つのステップ

見て学ぶ!イベントレポート

人は長い人生の中で、幸福な出来事だけではなく、つらく悲しい出来事にも遭遇します。ネガティブな出来事を乗り越えたと思っても、心の奥にトラウマとして傷が残ってしまう場合もあるでしょう。

トラウマを抱いたまま生きていると、ふとした瞬間に過去の出来事が思い起こされ、混乱してしまうことがあります。特に近しい人から受けたトラウマは愛着障害を引き起こし、さまざまな精神疾患の原因にもなってしまうのです。

今回mentallyでは、精神科医・前田先生が主催した「愛着障害とトラウマの考え方オンラインイベント」をレポート。イベントでは、メンタル・精神疾患に悩むお子さんの理解とケアに役立つ、愛着障害の回復・ケア方法について詳しく解説されています。

自分のトラウマを乗り越えるためにはどうすればよいのか、大切な人のトラウマにどう寄り添えばいいのか。愛着障害とトラウマについて理解することは、自分や周り人の心をケアするための大きなヒントになるでしょう。

メンタルケアには愛着障害・トラウマを理解することが重要

愛着障害やトラウマに関するメンタルケアを行う上で、相手の状態や特性をきちんと理解していることが大切です。

例えば、自分が苦しんでいることに対して理解の浅い人からアドバイスをもらうのと、きちんと理解しようとしてくれている人からアドバイスをもらうのでは、どちらを素直に受け取れるでしょうか?

完全に理解してくれているわけではなくても、理解しようと努めてくれている人からの言葉のほうが、素直に受け取れるものですよね。「自分はひとりではない」という安心感にもつながるような関係性を作っていくことが、ケアのための第一歩だと思います。

まずは「理解すること」が大切ですが、「理解しようとしてもできない」と悩んでいる方もいますよね。“自分や相手に起こっていることが理解できない”という悩みを解決するための方法のひとつに、愛着障害やトラウマの視点が用いられます。

精神疾患は精神医学の症状に診断を当てはめているだけであるため、症状が多いほどさまざまな診断がついてしまいます。ご本人からしても「結局、自分が抱えている疾患って何?」と思ってしまうこともあるでしょう。

それらを愛着障害やトラウマの視点から捉え直してみると、症状の原因がはっきりしたり理解に役立ったりすることがあると思っています。

「トラウマ」では思考より先に身体感覚が再現される

トラウマとは、「過去の体験と紐づいた反応」です。

トラウマがない人は、過去の体験を思い出してもとくに感情の昂りはありません。ただ記憶として思い出しただけの状態です。しかしトラウマがある人は、過去に起こった出来事が今も起きていることのように感じてしまいます。

例えば、3年ぶりに自転車に乗ったとします。最初は体が慣れていませんが、乗っているうちにだんだんと乗り方を思い出してきますよね。これは、体が感覚を覚えているためです。

しかも「昨日自転車に乗ってたかのように思い出す」ことがポイントです。体の感覚には時系列がありません。そのため、過去の出来事が今も起こっているように感じてしまう。これがトラウマの反応です。

目の前の人を大切にしたいのに、過去の人間関係で傷ついた出来事がトラウマとなり胸が苦しくなったり、「この人とは健全な人間関係を築けるだろうか」と不安になったり。これも過去の出来事が現在に出てきてしまっている状態です。私はこの状態を「過去が現実に重なる」と表しています。

トラウマによる反応にはさまざまな種類があります。代表的なものがフラッシュバックです。過去の記憶が現在に重なり、苦しんでしまう。過去に言われたネガティブな言葉を思い出して、つらい気持ちになることもあります。

他にも、過去の行動、思考、感情などが現在に重なって現れます。例えば無意識のうちに取ってしまう行動があったり、どうせ駄目なんだと考えてしまったり、なぜか急に悲しくなるなどが挙げられます。

さらにトラウマにおいて重要な要素が「身体感覚」です。トラウマによる反応が出る際、さまざまな身体感覚が現れます。例えば不安になる前にソワソワした感覚になったり、イライラして体が沸き立つような感覚があったり。胸がギュッと締め付けられるような感覚や、モヤモヤした感覚も当てはまります。

トラウマケアにおいては、トラウマとは思考や記憶よりも先に「感情の手前にある身体感覚」が再現されるものだともいわれています。体の感覚、体の記憶が出てくることで記憶や感情を思い出したり、表面に出てきたりしてしまう。この症状を理解することが、トラウマケアにも役立つと考えられています。

愛着障害は親子関係に関連する。具体的な3つの分類とは

愛着障害とは、重要な人間関係で起こったトラウマを指します。主に、幼少期における身近な人たちとの関係によるものです。

愛着障害の研究において、さまざまな親子関係のもとで子どもがどのように育っていくのかが観察されました。その結果、愛着障害は「回避型・両価型・無秩序型」の3つに分類されています。

※トラウマ体験は母子関係によるものとは限りません。また育児を行っているのは母親だけではありませんが、今回はわかりやすくお伝えするために赤ちゃんと母親の関係を例にして説明しています。

1.回避型

回避型の愛着障害では、「どうせ自分は大事にされない」と思い込んでしまう傾向にあります。

赤ちゃんが母親に頼ろうとしても、母親が無表情でいる・相手にしない・そもそも母親がいないなどの状況に置かれていると、赤ちゃん自身が母親に頼ることを諦めてしまうのです。

歩けるようになっても母親に甘えようとせず、勝手にどこかへ行ってしまう。人間関係を作ることや誰かに頼ることを諦め回避していくことから、回避型と呼ばれています。

「人に頼っても無駄」という思考のまま成長するため、周りに人がいても無視して自分のことのみに集中するようになります。人間関係に期待をしなくなり、一人でいることを求めるようになるのです。子どもが生まれても関心が持てず、最低限のお世話しかしなくなる。そのため赤ちゃんも安心して頼れず、回避型の愛着障害が連鎖していきます。

2.両価型

両価型の愛着障害では、見捨てられることに強い不安や恐怖を覚えます。

原因として挙げられるのは、母親の気分の変動が激しいことです。赤ちゃんにとっては、自分のことを可愛がってくれていると思ったらすぐに怒られたり、放置されたりという状態です。

母親の態度が絶えず変動する環境にいると、赤ちゃんは混乱してしまいます。また、その原因が母親の気分によるものだとは理解できません。結果、「自分が原因で母親を怒らせてしまっているのではないか」と考えます。常に母親の顔色を伺い、機嫌がよくなるようにがんばってしまうようになります。

しかし多くの場合、母親の気分が変動する理由は子どもがコントロールできないものです。本人からすると、一生懸命がんばっても母親が不機嫌なままなので「もっとがんばらないと」と自分を追い込み、いつまでも不安で落ち着けない状態になってしまいます。

両価型の愛着障害を抱えたまま大人になると、周りの機嫌を気にして「がんばらないと認めてもらえない」という思考になります。相手の反応によって安心したり不安になったりするため、自分らしく振る舞えません。

両価型の人が子どもを持つと、周りの反応によって気持ちが左右されてしまい、赤ちゃんも不安な状態に。回避型と同様に、両価型も子どもに引き継がれて連鎖しやすい傾向にあります。

3.無秩序型

無秩序型の愛着障害は、「母親に頼りたいけれど近付くのが怖い」という状況下で発症します。

母親から虐待を受けている子どもに現れることが多い症状です。母親に近付けば傷つけられ、離れようとすると怒られる。どのように行動しても怒られ傷つけられるような状態に混乱し、常に緊張感を抱いてしまいます。

その結果、心を守るために解離(かいり)状態になることを選ぶ子たちがいます。自分の感情や意識を麻痺させて、何も感じないようにすることでストレスや記憶を押さえ込むのです。

慢性的に緊張しているため安らげる場所がなく、自分から空想の世界に入って休む人もいます。現実に「もや」をかけることで、なんとか苦しみから逃げようとするような子どもになる傾向にあります。一見無感情のように見えても、内心ではさまざまな感情を押さえ込んでいるため、何かの刺激でトラウマや感情が爆発することも珍しくありません。

無秩序型の人が大人になると、爆発した感情を子どもに当ててしまうことがあります。親の爆発を当てられた子どもは混乱し、愛着障害が連鎖してしまう悪循環に陥ります。

基本的に3つの愛着障害の分類は複合して現れることが多く、それぞれのタイプの症状が複雑に合わさって現れるといえるでしょう。

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フリーランスwebライター/ボーカリスト。パニック障害やうつ病を患った経験を活かし、悩みを抱える方の心を暖められる記事をお届けします。得意分野はメンタル/恋愛/ペット。月と星と花と猫が好き。

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