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長い人生において、病気や怪我のトラブルはいつ起こるかわかりません。どんなに健康な人であっても、心身の不調は気付かぬうちに近づいてくるものです。
今回は、突然の体調不良に備えた制度としてぜひ知っておきたい「傷病手当金」についてご紹介します。社会保険の被加入者であれば、誰しもが平等に利用できる傷病手当金の制度。制度の内容や利用条件を学び、療養期間における経済的・精神的な不安を和らげましょう。
目次
傷病手当金とは
傷病手当金とは、健康保険の加入者が病気や怪我で会社を休まざるを得なくなった際に手当金が支給される制度です。うつ病をはじめとする精神疾患も対象となるため、もしものときに請求できるように事前に覚えておきたい制度といえます。
2022年1月1日から傷病手当金の支給期間が通算化され、従来は支給開始日から1年半だった支給期間が「通算して1年半」になりました。これにより、仕事と治療を両立しながら柔軟に所得補償を得ることが可能です。
支給される金額は1日あたりで計算され、「支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額」÷30日×(2/3)です。計算式上だと少しわかりづらいかもしれませんが、「月のお給料の約2/3」という認識で基本的には差し支えありません。
もし支給開始日の以前の期間が12ヵ月未満の場合は、以下のいずれか低い額で計算をします。
- 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 標準報酬月額の平均額である30万円(当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額)
※支給金額計算例
労働期間12か月以上・月給20万円の場合……20万円÷30日×(2/3)=1日4,444円の支給 労働期間12ヵ月未満・月給40万円の場合……30万円÷30日×(2/3)=1日6,666円の支給(月給の40万円は標準報酬月額の平均額の30万円よりも高いため、低い額である30万円での計算となる) |
業務内容にかかわる病気や怪我は労働者災害補償保険の対象となり、傷病手当金の制度は業務外の理由による病気・怪我が対象となります。そのため、妊娠中の体調不良による自宅療養や、インフルエンザに感染したことが理由で会社を休む場合も、傷病手当金の対象となる可能性があるでしょう。
支給期間は同一傷病に対して通算1年半です。つまり3ヵ月利用した後、同一傷病でも1年3ヵ月支給期間が残るということ。また、関連性のない別の病気であれば支給期間は新たに設定されます。例えば、骨折をして休んだのちに心筋梗塞で休んだとしても通算はされません。
参考:厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
傷病手当金の認知度結果

株式会社Mentally 「日本のメンタルヘルス支援制度」認知度調査 2022年5月
176名の男女を対象に傷病手当金に関するアンケートを行ったところ、「傷病手当金を知っている」「実際に利用したことがある」と回答した人は全体の54.6%でした。
「名前だけ聞いたことはある」と答えた人は33%、「まったく知らない」と答えた人は12.5%という結果に。
傷病手当金という制度自体は過半数の人が認識していますが、約半数の人は自分が使うイメージを持てていないことがわかります。
傷病手当金を利用できる対象者とは?
傷病手当金を利用するためには、大きく分けて4つの条件があります。ここからは、3つの条件について解説します。
1.業務に関連性のない病気・怪我の療養のための休養であること
傷病手当金は、健康保険の被保険者を対象とする制度です。会社員や公務員などが加入している健康保険から支給されるため、自営業者をはじめとする国民健康保険に加入している人は基本的に利用できません。
病気を患っていたり怪我をしていたりする際も、「療養のため働けない」と判断されなければ利用できません。
2.業務内容の継続が困難であること
休んでいる場合はもちろん、出勤自体は可能であっても、被保険者の仕事内容によって「十分に従事できない」と判断された場合は利用が可能です。これらは被保険者の仕事内容を加味しながら、医師らの意見を参考にしつつ決定します。入院を伴わない自宅療養の場合も傷病手当金の対象となります。
3.病気や怪我により連続4日以上業務ができないこと
傷病手当金は、連続して3日間休んだ後に4日目以降にも仕事に就けなかった際、4日目以降の休みを対象に支給されます。
4.休業中に給与が支払われていないこと
傷病手当金は、療養のために休業することにより、給与が支払われない人への生活保障を行う制度です。そのため給与が支払われている期間は傷病手当金を利用できません。また、支払われていた給与が傷病手当金よりも少なかった場合は差額を受け取ることが可能です。
傷病手当金を利用するメリット
傷病手当金を利用することでさまざまなメリットがあります。代表的なメリットは以下の通りです。
- 標準報酬日額の2/3が支給され、経済的不安を抑えた状態で療養に専念できる
- 仕事に就けないと判断されれば、病気や怪我の内容は問われない
- 会社員や公務員などなら誰でも利用可能
- 健康保険に加入していれば派遣・パート・アルバイト社員でも利用可能
傷病手当金の最大のメリットは、経済的不安を軽減しながら病気や怪我の療養に専念できることです。
休職や療養における不安要素として、「収入が止まってしまう」「生活の維持が困難になってしまう」という心配があります。傷病手当金を利用することで、標準報酬日額の2/3が支給され経済的不安を大きく軽減し、安心して社会復帰を目指すことが可能です。
傷病手当金の利用方法と注意点
ここでは、実際に傷病手当金を利用する際の流れと注意点を解説します。スムーズに制度を利用できるよう、事前に確認しておきましょう。
用意するもの
- 傷病手当金支給申請書
- 被保険者記入用:1枚
- 事業主(会社)記入用:1枚
- 療養担当者(医師)記入用:1枚
- 療養担当者(医師)の意見書
- 年金証書のコピー
- 年金額改定通知書のコピー
- 休業補償給付支給決定通知書のコピー
こう書くと「ハードルが高そう」と思われてしまうかもしれませんが、後述するように会社に確認すれば対応してくれます。また健康保険組合などでも案内してくれます。
利用方法
傷病手当金の申請は、基本的に会社側が対応することがほとんどです。会社側の対応がない場合は、自身で郵送をする必要があります。具体的な利用の流れは以下の通りです。
- 会社に病気や怪我によって働けないことを連絡する
- 傷病手当金支給申請書を取り寄せる(ダウンロードをする)
- 傷病手当金を利用する本人(被保険者)が被保険者用記入用紙を記入する
- 医師(療養担当者)が療養担当者用記入用紙を記入する
- 会社(事業主)が事業主用記入用紙を記入する
- そのほか添付すべき必要書類を準備する
- 健保組合や協会けんぽへ傷病手当金の支給申請をする
利用時の注意点
傷病手当金を利用する際は、以下の点において注意が必要です。
- 会社と書類のやり取りをする必要がある
- 受給期間終了後、同じ病名では受給できない場合がある
- 生命保険に加入できない場合がある
- 傷病手当金受給中は失業保険を受給できない
事前に注意点や必要事項を確認し、会社と医師との連携を取りながら手続きを進行しましょう。
実際に傷病手当金を利用された方のリアルな声
傷病手当金は療養期間における負担や不安を軽減するために有用な手段ですが、実際のやり取りの中でトラブルが発生することも。利用におけるポイントや注意点を事前に勉強しておくことで、さらなる安心につながります。
傷病手当金を利用したことがある方に、実際の経験をお伺いしました。
1.Yさん(男性 / 30代前半)
- 傷病手当金を利用した理由
うつ病の治療に専念するため。
- 実際に利用した感想
休みながら長期間支給を受けられるため、治療に専念できました。休職には常に復職の不安が付きまといますが、金銭的な負担が軽減されることは生活面のみならず精神面においてもかなり助けられたように思います。
2.Tさん(女性 / 20代後半)
- 傷病手当金を利用した理由
当時は妊娠中で切迫早産の診断を受け、突然入院をしなくてはならない事態に。産前休暇に達する2ヵ月前だったため、傷病手当金を申請しました。
- 実際に利用した感想
入院費だけではなく、差額ベッド代などすぐに必要な費用も多かったため、とても助かったことを覚えています。会社の方から傷病手当金が利用できる旨の連絡があり、手続きもスムーズでした。
3.Nさん(女性 / 20代後半 )
- 傷病手当金を利用した理由
適応障害を発症し、療養期間に充てるため。
- 実際に利用した感想
さまざまな不安がある中で、給与の2/3が保証されていることには安心感がありました。「仕事も体調も、お金も全部が不安……」という状態では、なかなか回復に向かいにくいものです。しかし傷病手当金を利用することにより、経済的な不安が取り払われただけでもとてもポジティブな効果があったように思います。
一方、お世話になったメンタルクリニックにはなぜか傷病手当金の知識がなく、何度も病院とやり取りが発生してしまいました。体調が悪いなか、保険協会と直接連絡を取る必要があったことも……。
病気を発症した後にゼロから制度を調べるのは困難に感じるため、心身が健康な時期から制度について知識を持ち、いざというときに備えておくことをおすすめしたいです。
類似する支援制度
ここでは、傷病手当金に類似する制度や補償をご紹介します。
- 労災保険(労働者災害補償保険)
労働者や家族の生活を守るための社会保険で、業務時間内に病気や怪我をした際に必要な治療費を給付してもらえる制度です。
参考:厚生労働省「労災補償」
- 求職者支援制度
再就職や転職、スキルアップを目指す人が生活支援の給付金を受給しながら、無料の職業訓練を受講できます。給付金は月10万円で、とくに親や配偶者と同居している人が受給しやすい制度です。
- 雇用調整助成金
会社都合や天変地異などのやむを得ない事情による休業補償を指します。事業の縮小を余儀なくされた企業が、余剰従業員に休業・教育訓練・出向を行う際に支給される助成金です。
- 休業手当
会社都合により休業が発生した際に従業員へ支給される手当です。大型台風や地震などの自然災害による自宅待機命令・帰宅命令などにも適用されます。
- ハローワークによる傷病手当
離職した人がハローワークへ休職の申し込みをした後に、病気や怪我が原因で15日以上連続して仕事に就けなかった場合に支給されます。傷病手当金の支給額は賃金日額の45~80%です。原則的に、離職した日の直前6ヵ月に毎月固定で支払われていた賃金の合計÷180の額になります。
参考:ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
- 各社独自の支援制度
病気で休んでいる最中も手当が支給される制度を、会社が独自に設けている場合もあります。他にも、いわゆるリハビリ出勤中に手当が出るケースも。その間が傷病手当金の対象になるかはケースバイケースであるため、会社に確認しましょう。
傷病手当金を利用して、精神的・経済的に安心感のある療養を
今回は、傷病手当金の内容やメリット、注意点などをご紹介しました。
傷病手当金を申請する際は、原則として休業後の事後申請となります。しかし、休業期間が長期になる場合は無収入の状態が続いてしまうため、一定期間休業したタイミングで現時点までの日数分を分割して申請することも可能です。
傷病手当金制度はメリットが多いですが、心身が疲れているときに資料のやり取りをするのは疲労を感じるものです。家族や同居人がいる人は周囲のサポートを受けることも大切です。
お金の不安をケアできる傷病手当金制度は、社会復帰のための心強い味方になってくれます。
いざというときに慌てないように、心身の余裕があるときから傷病手当金の内容や申請方法について調べておきましょう。
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