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長い人生を歩む中で、突然メンタルの調子を崩したり障害を背負ったりしてしまう可能性は誰にでもあります。疾患や障害と向き合う際に頭を悩ませる要素の一つが、金銭面における負担です。
今回は、精神疾患や身体障害の治療・療養の医療費を軽減できる、自立支援医療制度についてご紹介します。正しい知識を身に付け、できる限り精神的・経済的に不安がない状態で心身の治療に専念しましょう。
自立支援医療制度とは
自立支援医療制度とは、医療費の自己負担額を軽減できる公的な制度です。自立支援医療で医療費を軽減できるのは、以下の医療に限ります。
- 精神通院医療……精神疾患の治療
- 更生医療……おもに身体障害の治療
- 育成医療……身体障害がある子どもの治療
これらの中でもとくに多くの人が利用する可能性があるのは、精神疾患が対象となる精神通院医療。通院による継続的な治療が必要な人であれば、誰でも申請・利用が可能です。
普段から利用されている公的医療保険による医療費の自己負担額は、通常3割。自立支援制度を併用することで、原則的に1割まで医療費を減額できます。さらに世帯ごとの所得により区分が設けられており、所得が一定未満の利用者は医療費の自己負担額に上限を設けることが可能です。
さらに、統合失調症を始めとした高額・長期間に渡る治療をする疾患の場合は「重度かつ継続」という区分にカテゴライズされ、自己負担額の上限がさらに別枠で設けられます。
例を一つご紹介します。
Aさんは精神疾患で継続的に通院しています。本来の医療費自己負担は3割ですが、自立支援医療制度により月額負担上限が5,000円とされています。
Aさんの医療費の月額合計が、病院での診察代30,000円+薬局の処方で30,000円=合計60,000円だった場合、自立支援医療制度を利用していなければ自己負担額は60,000×0.3=18,000円です。
しかし、Aさんは自立支援医療制度を利用しているため、5,000円のみが自己負担となり、残りの13,000円は公費で支払われます。(42,000円は医療保険から支払われます。)なお上限額に至らない場合でも自己負担は医療費合計の1割です。
自立支援医療制度の認知度調査結果

株式会社Mentally 「日本のメンタルヘルス支援制度」認知度調査 2022年5月
176名の男女を対象に自立支援医療に関するアンケートを行ったところ、「自立支援医療を知っている」「実際に利用したことがある」と回答した人は全体の29.5%でした。
「名前だけ聞いたことがある」と答えた人は19.9%、「まったく知らない」と答えた人は50.6%という結果に。
半数以上の人が自立支援医療の制度や仕組み自体に認識を持っておらず、誰でも利用できる公的制度でありながらも実際の認識には大きな差があることがわかります。
自立支援医療制度の利用対象者
自立支援医療制度を利用するためには、医療ごとに定められた条件を満たす必要があります。
精神通院医療の場合
精神保健福祉法第5条に規定されている、統合失調症などの精神疾患を有していること。通院による精神医療を継続的に要すること。
主な治療法:通院精神療法、向精神薬の投与、精神科デイケア、リワークプログラムなど
更生医療の場合
身体障害者福祉法に基づき、身体障害者手帳の交付を受けていること。該当の障害を除去・軽減する手術の治療により、確実に効果が期待できること(18歳以上が対象)。
主な治療法:人工関節置換術、水晶体摘出術、弁置換術、ペースメーカー埋込術、人工透析、腎移植など
育成医療の場合
身体に障害を有する児童であること。該当の障害を除去・軽減する手術の治療により、確実に効果が期待できること(18歳未満が対象)。
主な治療法:更生医療と同様
自立支援医療制度利用するメリット
- 医療費の負担が軽くなる
- 経済面をケアすることで精神的な不安を軽減できる
- 人によっては就労支援施設を利用するときの証明として使用できる
自立支援医療制度における最大のメリットは、医療費の自己負担額を軽減できる点です。
自立支援医療が適応される疾患や障害は、治療のために長い期間が必要です。期間に比例して必要となる医療費も上がり、患者の金銭的・精神的負担は増え続けます。月々の限度額が設けられることにより安定した通院治療が可能となり、治療や療養における強力なサポートとなるでしょう。
また自立支援医療受給者証を所持していることで「障害福祉サービス受給者証」を発行することが可能です。これにより、離職後に就労移行支援を利用する際、障害者手帳がなくても病気や障害を証明することができます。
自立支援医療制度の利用方法と注意点
用意するもの
自立支援医療制度を申請するためには、以下の書類が必要です。ただし、自治体によって内容が異なる場合や、一部のものは用意する必要がない場合があります。事前に自治体の障害福祉課へ問い合わせをしておきましょう。
- 申請書(自立支援医療支給認定申請書)
- 医師の診断書(自立支援医療申請用)
- 健康保険証
- マイナンバーが確認できるもの
- 世帯の所得が確認できるもの(課税・非課税証明書など)
書類を揃えた後は、主治医に自立支援医療の適用について相談をした上で所定の申請書に記入をしてもらいます。各都道府県・指定都市が指定した「指定自立支援医療機関」から通院する施設を指定し、市町村担当窓口で必要書類を提出します。
利用方法
申請が完了したら、資料が送付されてくるのを待ちましょう。
- 申請が認められたら「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」が送付される
- 指定した医療機関で「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」を提示する
一度「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」を受け取れば、後は医療機関で提示するだけで自立支援医療の適用となります。
「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」を申請してから届くまでは、約1~2ヵ月の期間が必要になることも。申請した日から即日利用できるわけではないことは覚えておきましょう。
待機期間中は、申請後に貰える「申請書の控え」を提出することで自立支援医療が適用されます。自立支援が適応外にならない限りは後から差額の払い戻しが可能です。
もしも医療機関で控えが適用不可の際も、受給者証が届いた後で利用者が払い戻しの手続きを行います。払い戻しの内訳は、申請日~受給証が届くまでに支払った医療費のうち、自立支援医療を利用した場合の自己負担額との差額です。
- 自立支援医療受給者証
- 自己負担上限額管理
- 自己負担(3割負担を含む)で医療費を支払った際の領収書原本
以上3つを用意し、医療機関(もしくは各自治体)にて払い戻しの申請を行いましょう。
注意点
- 毎回書類の提示が必要
- 病院と薬局を変更する際は手続きが必要
- 1年に1度更新が必要
- 医師の診断書の提出が必要
- 特定の医療機関でしか使えない
- 入院医療の費用には使えない
- 保険医療以外には使えない
- 精神疾患・精神障害と関係のない疾患の医療費には使えない
自立支援医療を利用する際は、通院の度に「自立支援医療受給者証」と「自己負担上限額管理票」を毎回提示しなくてはなりません。忘れてしまうと負担額が通常になってしまうため、常に持ち歩く必要があります。後からの払い戻しができるかは医療機関によって扱いが異なることにも注意しましょう。
診断書の料金はやや高額であり、病院によっては5,000円〜10,000円の費用が発生する場合があります。また制度が利用できるのは、指定自立支援医療機関のみ。もともと通院していた施設では利用できない可能性もあるため、事前の確認が大切です。
実際に利用された方の声
ここでは、自立支援医療制度を実際に利用した方々の感想をご紹介します。共通する点は、やはり「自己負担額軽減」により感じられるメリットです。豊かな人生のために心身の健康は欠かせないからこそ、必要な費用がカバーできる自立支援医療制度は生活の大きな支えになっていることが伺えます。
1.Aさん(30代 / 男性)
毎年更新が必要なので少し面倒ですが、薬代を含めた医療費が本来の3割負担から1割負担になるのは本当に大きいと思います。継続して通院するためにも必要な制度です。
2.Hさん(20代 / 女性)
医療費が今までの1/3になるのは本当にありがたいです。通院当初は知らなかったですし、告知している病院もそれほど多くないので、もっと病院で周知してほしいなと思います。病気によって仕事をセーブしていた時期も、通院がそれほど負担になりませんでした。
3.Sさん(30代 / 女性)
メンタル系の疾患は診察費や薬代など、何かと定期的な出費が必要となることもあるので経済面で本当に助けられています。とくに、お金に余裕がない大学生の時期は、この制度がないと定期的に通院できませんでした。
類似する支援制度
- 傷病手当金
健康保険の加入者が病気や怪我で会社を休まなくてはいけなくなった際、傷病手当金が支給される制度です。うつ病をはじめとする精神疾患も対象になります。
- 高額療養費制度
同一月に発生した医療費の自己負担額が高額になった際、上限額を超えた金額が後から払い戻される制度です。自己負担額の上限は標準報酬月額によって区分されます。
- 求職者支援制度
再就職や転職、スキルアップを目指す人が生活支援の給付金を受給しながら、無料の職業訓練を受講できます。給付金は月10万円で、とくに親や配偶者と同居している人が受給しやすい制度です。
自立支援医療制度を利用して、安心した生活を送ろう
今回は、自立支援医療制度の内容やメリット、注意点などをご紹介しました。
長期的な治療を必要とする疾患や障害を抱えている場合、金銭的な負担が原因で途中で通院を諦めてしまうケースもあるでしょう。経済面での負担に耐えきれずに適切な医療を受けられない状態では、症状が改善せず必要な治療期間がさらに伸びてしまうことが懸念されます。
自立支援医療制度による月額医療費上限のシステムは、経済面の負担に苦しむ人たちの大きな味方になります。傷病手当金受給や障害年金受給とも併用できるため、まずは自分の状況でも利用が可能であるかを主治医に相談してみてはいかがでしょうか。
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