日本に生きるすべての子どもはさまざまな法律で守られ、安定した生活のもとで安心して暮らせる権利を持っています。しかし両親の離婚や経済状況の悪化などにより、安定した暮らしを送るのが難しい場合もあるでしょう。
今回は、子どもたちを貧困から守り、生活と自立をサポートする「児童扶養手当」の制度についてご紹介します。未婚での出産や離婚で経済的困窮に陥っている保護者は、条件に当てはまれば誰でも利用できます。制度の知識を学び、子どもとの生活を安心で豊かなものにしていきましょう。
児童扶養手当の認知度結果
株式会社Mentally 「日本のメンタルヘルス支援制度」認知度調査 2022年5月
176名の男女を対象に生活保護に関するアンケートを行ったところ、「児童扶養手当を知っている」「実際に利用したことがある」と回答した人は全体の42.6%でした。
「名前だけ聞いたことがある」と答えた人は34.7%、「まったく知らない」と答えた人は22.7%という結果になっています。
児童扶養手当は、子どもがいない人や家庭でのトラブルがない人にとっては認知度の低い制度です。しかし家庭内不和がない場合でも、父母のどちらかに事故や病気などの万が一の事態が発生する可能性があります。今のうちから制度の内容や利用条件を学ぶことは無駄にはなりません。
児童扶養手当とは
児童扶養手当とは、何らかの事情により経済的に困窮している児童の保護者に対して、一定額の手当が支給される制度です。多くの場合、離婚によるひとり親世帯を始めとする「父母のどちらかと生計を同じくしていない児童」がいる家庭が対象になります。
児童扶養手当の目的は、すべての児童が安定した生活のもとで暮らせることと、児童の自立の促進です。実際に手当が支払われるのは主に保護者ですが、本来の目的は保護者への支援ではなく、保護者を通した児童の福祉の増進です。
児童扶養手当における手当額は所得によって変動します。前年の収入が160万円未満の場合は全額支給され、前年の収入が160万円以上365万円未満の場合は一部支給額が支給されます。また家庭内の子どもの人数が増えると支給額も上がると覚えておきましょう。
子どもの人数 | 全部支給/月 | 一部支給/月 |
1人 | 43,070円 | 43,060円~10,160円 |
2人 | 10,170円 | 10,160円~5,090円 |
3人目以降1人あたり | 6,100円 | 6,090円~3,050円 |
児童扶養手当の支払期日は1月・3月・5月・9月・11月の2ヵ月おきです。一度に2ヵ月分が振り込まれ、未婚の状態で出産した女性も問題なく受け取れます。父親に認知されている場合や、養育費を受け取っている場合も、所得制限に問題がなければ児童扶養手当を受け取れます。
※当記事に記載されている情報は2022年8月現在のものです。最新の情報は厚生労働省のページで確認をしてください。
児童扶養手当の利用対象者
※画像が違うものだった
児童扶養手当の利用対象者は、以下の3つどれかに当てはまる人です。
- 18歳に達する日以降の、最初の3月31日までの間にある児童を監護する母
- 上記と同条件の児童を監護し、かつ生計を同じくする父
- 上記と同条件の児童を監護し、かつ生計を同じくする養育する物(祖父母など)
子供が障がいを持っている場合は年齢の上限が上がり、20歳未満であれば受け取れます。また児童扶養手当を受け取るためには、監護される児童が以下の条件に当てはまっていることが求められます。
- 父母が離婚した児童
- 父母のどちらかが死亡した児童
- 父母のどちらかが一定程度の障がいの状態にある児童
- 父母のどちらかの生死が明らかでない児童
- 父母のどちらかから遺棄されている児童(1年以上見捨てられて扶養されていない)
- 父母が結婚せず、未婚のまま生まれた児童
- 父母が明らかでない児童(遺児など)
- 父母のどちらか法令により1年以上拘禁されている児童
児童扶養手当における「監護」とは、いわゆる「子どもの面倒を見ていること」を指します。子どもの生活について社会通念上必要とされる監督・保護を、保護者として行っている状態です。
児童扶養手当を利用するメリット
- 経済的負担を軽減できる
- 親子の時間を設けやすくなる
- 子どもの将来の可能性を広げられる
- 各自治体のサービスを受けられる
児童扶養手当の最たるメリットは、離婚や配偶者との死別などによる経済的困窮をサポートしてくれる点です。日々の生活費にはもちろん、子どもの学習や進学費用の貯蓄などにも充てることで、親子が心身ともに豊かな状態で自立して暮らせる状態を支援します。
児童扶養手当は子どもの福祉を目的とした制度ですが、手当金が支給されることで保護者が体に負担をかけ無理をして働く必要性が減り、子どもとの時間を増やせることも大きなメリットだといえるでしょう。
経済的に困窮した環境では、子どもの学習にコストをかける余裕を持ちづらく、経済的な自立を妨げます。児童扶養手当を利用することで生活が安定しやすくなり、学習への余力を持ちやすくなることで、子どもの可能性を広げられるでしょう。
また児童扶養手当を申請すると送られる「児童扶養手当証書」は、児童扶養手当の受給中に各種サービスを受けるための証明証としても活用されます。自治体によって独自のサービスが展開されているため、地域の自治体のホームページで確認することをおすすめします。
児童扶養手当の利用方法と注意点
用意するもの
- 申請者の戸籍謄本の原本
- 児童の戸籍謄本の原本
- 印鑑
- 申請者のマイナンバー確認書類
- 児童のマイナンバー確認書類
- 申請者の本人確認書類
児童扶養手当を利用する際は、以上のものを用意して最寄りの自治体窓口にて受付を行います。ただし住んでいる市区町村によっては、事前に必要な書類が異なる可能性があります。事前に電話やホームページなどで確認しておきましょう。
利用方法
- 最寄りの自治体窓口で受付を行う
- 必要書類を記入し、用意した書類と一緒に提出する
- 自治体にて審査が行われる
- 審査に通過した後、申請の翌月以降から支給が開始される
児童扶養手当の申請は原則として最寄りの自治体にて行われます。受付後、「児童扶養手当認定請求書」を記入して申請しましょう。児童扶養手当の支給が決定すると、有効期限や支給額などが記載された児童扶養手当証書が送られるため、大事に保管してください。
また児童扶養手当は審査の翌月以降からの支給になるため、奇数月に審査が通った場合は実際の受給までに期間が空くことに注意しましょう。
注意点
条件に当てはまらない場合がある
児童扶養手当は、主に以下の条件に当てはまる児童や環境では受給できません。
- 児童が児童福祉施設などに入所している(母子生活支援施設などの一部施設を除く)
- 児童が里親に委託されている
- 児童が父母どちらかの配偶者と生計を同じくしている(配偶者に重度の障がいがある場合は除く。事実上の配偶者を含む)
- 申請者や扶養義務者が一定額以上の所得を有している
特に所得制限は、受給開始時点では条件をクリアしていても途中から受給停止になる場合があります。次項にて所得制限の詳しい条件について記載するためご確認ください。
所得制限がある
児童扶養手当には所得制限があります。上限を超えた所得がある場合、その年の8月から翌年7月分までの児童扶養手当の全額または一部が支給停止になる可能性があります。所得の計算方法は以下の通りです。
所得=収入金額–諸経費(給与所得控除額)+養育費の8割相当額(養育費×0.8)-諸控除額
この金額を以下の表に当てはめ、制限を超えていないか確認しておきましょう。
児童扶養手当の所得制限については問題視する意見も多く、現在も撤廃・上限額の引き上げを望む声が増えています。今後の動きによっては変動する可能性があるため、最新情報を確認することをおすすめします。
児童手当と混同しやすい
児童扶養手当と児童手当は、名前は似ていますが別の制度です。それぞれ児童の対象年齢や受給者の対象条件、支給金額、支給時期も変わるため、混同しないように気を付けましょう。家庭の状況によっては、両方を同時に受給することも可能です。
養育費を受け取っている場合は所得に影響する
離婚後に元配偶者から養育費を受け取っている場合は、受取金額の8割が受給者の所得として算出されます。そのため労働による所得は制限を下回っていても、養育費を含めると児童扶養手当の条件から外れてしまう可能性があります。養育費を含める収入を合算の上、上限を超えていないか確認しておきましょう。
類似する支援制度
児童手当
児童手当は、児童が15歳になった後の最初の3月31日まで支給される手当です。家庭の生活の安定や、次世代の社会を担う児童の健やかな成長に役立てることを目的としています。対象となる児童を養育している世帯が受給でき、児童扶養手当と違いふたり親世帯でも支給されます。支給額は3歳未満は一律で月額15,000円、3歳以上〜小学校修了前は10,000円(第3子以降は15,000円)、中学生は一律10,000円です。
児童育成手当
児童育成手当は、児童扶養手当と同様にひとり親世帯をサポートする制度です。児童扶養手当と違う点は、受給者のみに所得制限がもうけられていることです。また限度額も児童扶養手当よりも高めに設定されています。養育費の所得算出もありません。手当金は自治体により変動します。
特別児童扶養手当
特別児童扶養手当は、精神または身体に障がいを持つ児童を対象とした公的支援です。所得制限はありますが、20際未満の子どもで以下の条件を満たしていればすべての家庭に支給されます。
- 障がいが原因で日常生活に著しい制限を受けている
- 精神障がいがあり精神の発達が遅れている
- 身体に障がいがあり長期にわたる安静が必要である
支給される手当金は、子どもの人数や障がいの度合いによって変動します。詳しくは、厚生労働省のページや地域の自治体で確認しましょう。
児童扶養手当の活用で家族を守る後ろ盾をつくろう
今回は、児童扶養手当の概要や利用するメリット、注意点などをご紹介しました。
少子高齢化が社会問題となっている昨今では、子どもを安心して育てられる世の中のために公的支援の見直しが注目されています。児童扶養手当もそのひとつです。
例えば平成31年には児童扶養手当の支払回数が年3回から6回に変わったり、令和2年には障害年金を受給しているひとり親世帯が児童扶養手当を受給できるように見直しがされたりしました。
児童扶養手当においては現在もいくつかの問題点が挙げられていますが、困難を抱える家庭にとって大きなサポートとなっているのは事実です。また今後は条件が変化していくことも十分に考えられます。
児童扶養手当の利用を考えている人は、厚生労働省のような公的な情報媒体やニュースをチェックし、最新情報を確認することが大切です。支援や制度は、知らなければ使うことができません。子どもの将来や生活に余裕を持たせるために、一人で抱え込まず積極的に児童扶養手当を利用していきましょう。